報告八 葛城ホタルの手記・3

「ウタカタ様の手紙を読んだのは、あてもない道を彷徨って、もう何日も過ぎた頃でした。手紙を読んで、もっと早くに読むべきだったと、そして読まなければよかったと、正反対の後悔を同時に感じました。手紙は砦を出る前、ウタカタ様から手渡されたものです。『どうしようもなくオレが恋しくなった時に読め』その一言を添えられて、半ば無理矢理押しつけられました。あの時はすぐにでも読みたかったのですが……ウタカタ様の視線が、それを許してくれなかったのです。あれはなんというか、悲しさと恥ずかしさが混ざった、不思議な瞳でしたから。

 手紙は、とても残酷な内容でした。ウタカタ様を失った今、今さら愛の言葉を囁かれたところで、何が残るというのでしょう?『独りじゃない』なんて、ウタカタ様は大嘘つきです。今この瞬間、どこにウタカタ様はいるのでしょう。姿も見えない、声すら聞こえない。ウタカタ様が私に託そうとした希望の手紙は、空しくも絶望の手紙となって私のもとに届いたのです。死のうと思いました。今すぐにウタカタ様のもとに逝こうと。けれどできなかった。『お前は生きるんだ』ウタカタ様の言葉が脳内に響いて、私を咎めるんです。ウタカタ様は私の傍にいないのに、どこにもいないのに、私を見張っているんです。

 私は悟りました。もう2度と、私たちは離れられないのだと。そして私に、自由はないのだと。ウタカタ様の愛という呪縛に取り憑かれ、私は死ぬことすらできない。ウタカタ様の傍に逝くことすらできない。絶望の中の希望。私は独りだけど、独りじゃないんです。私に自由はないけれど、それでも幸せなんです。
 私の愛するウタカタ様。彼はずっと私の傍に。彼の命が尽きるその時も、彼の心は私が支配していた。とても幸せなことです。今は彼が、私の心を支配している。もう私は彼から逃れられない。同じように、彼も私から逃れられない。私は一生の孤独と、愛を手にしたのです。今私は、彼と共に生きることを決めました。あの日感じた希望を、ウタカタ様と共に、もう一度探しにいきましょう!ウタカタ様は生きているのです。今ここに、私の傍に、ずっと、今この瞬間も。」





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