報告七 ウタカタから葛城ホタルへの手紙(一部抜粋)
「ホタルと出会ってオレは、心から良かったと、そう思う。面と向かってなんて言えないから、こうして手紙を書いているのだが……いつか、ちゃんと目を見て伝えられたら、それほど幸せなことはないだろう。考えてみろ。この手紙をホタルが読んでいるときは、オレはここに、ホタルの傍にいないことになるんだ。オレが人柱力だということは……お前は知っているのだろうか。今のオレには、それを話す勇気がない。情けないが、それを話すことによって、ホタルがオレから離れることが怖いんだ。笑えるだろう?でもそれほどまでに、ホタル、お前はオレにとって大切な存在なんだ。どれくらい昔になるだろうか。考えれば昨日のことのように思い出せる。ホタルと出会った日。空がとても綺麗だったよな。透き通るように、青い空。ホタルはオレが青空みたいだと言っていたが、オレはお前のほうが青空みたいだと思う。どんな悲しみも、全て溶かしてしまう。気がつけばいつも傍にいて、慰め癒してくれて……青空が嫌いな人間なんていないだろう。ホタル、お前はオレの青空だった。オレの希望だった。ホタルがいたから、オレは、こんなに幸せを感じているんだ。
オレがいなくなったら、ホタルはどうなってしまうんだろう。きっとお前のことだ、オレのあとを追おうと考えるだろう。でも、それだけはやめてくれ。お前は生きるんだ。どんなに辛いことがあっても、今まで耐えてきたんだろう?オレがお前の傍からいなくなるときは、オレが死ぬときだ。それまでは何があっても、たとえお前がオレを嫌おうと、ずっと傍にいる。約束するよ。オレにはお前が必要なんだ。ホタルにもオレが必要だろう?だから、別れがくるその日まで、ずっと寄り添って歩いていこう。残りの命をホタルのために使えたら、それだけでオレは満足だ。
ホタル、どうしてオレが、こんな手紙を書いているかわかるか?さっきも言ったように、オレは人柱力だ。そして世間では、尾獣狩りが行われている。……あとはわかるな?オレがいつ死んでも、おかしくない状況ってことだ。それまでにホタルに想いの全てを伝える自信が……オレにはない。この長ったらしい手紙の中でさえ、まだ半分も伝えられていないんだ。本当は、ちゃんと目を見て、ホタルに触れながら、伝えてみたかった。でも知っているだろ?オレにそんな器用なこと、できるはずがないって。ホタルなら笑って許してくれるはずだ。この手紙を読んで、初めてオレの想いに気づくかもしれない。この手紙の内容が嘘に感じるくらい、オレはお前に優しくしてやれないかもしれない。けれど、オレは本当にお前が大好きなんだよ。ホタルが万が一オレから離れることがあったら、情けない姿を晒してでもお前にしがみついてしまうくらい、お前が大切なんだ。
……なぁ、ホタル。これからオレたちは旅に出る。きっと辛いこともたくさんあるだろう。途中でオレが、死んでしまっても、お前はずっと、笑って生きていてくれ。もし死後の世界があるのだとしたら、……いや、そんなものがなくても、オレはずっと、ホタルの傍にいるから。お前はもう独りじゃない。独りじゃないんだ。」