報告九 土蜘蛛のその後
「ホタル様は今、どこにいるのでしょうか。あてもなく、今や幻影となったウタカタ殿と共に、旅を続けているのでしょうか。……どんな姿でもいい。ホタル様が幸せを感じていらっしゃれば、またあの時のような笑顔で笑っていてくだされば……それでいいのかもしれません。人の幸せは人それぞれ。私が口を出すことではありません。ホタル様とウタカタ殿が幸せなら、私はそれでいいのです。……ホタル様の捜索、ですか?幾度となく考えました。けれど、ホタル様を見つけたところで、それが彼女にとって幸せなのでしょうか。今のホタル様に現実をつきつけたところで、幸せなんてどこにもないのです。ホタル様にはもう、絶望は必要ない。希望だけでいいんです。たとえそれが、他人の目に絶望に映ろうとも、ホタル様にとっての希望なら、私はそれを守りましょう。この命が尽きるまで。
土蜘蛛一族は、小さいながらも元気にやっております。まだ復興とまではいきませんが……少しずつ、昔の活気に溢れた姿に戻ろうとしています。……いえいえ、それもこれも、5年前のあの日、木ノ葉のみなさんが助けにきてくださったからこそ。感謝しても感謝しきれないくらいです。それに……まさか貴方が、火影になろうとは。……いえ、こういっては失礼ですが、あの時の貴方は、血の気の荒い子供にしか見えていなくて。
でも確かに、その頃から、優しさに満ちあふれていました。お世辞なんかではありません。役の行者様の墓に花を添えてくださったり、他人同然の私たちのために命をかけて戦ってくださったり……。貴方が火影になったのなら、もう木ノ葉は安心ですね。もう2度と、ホタル様やウタカタ殿のような犠牲をださないでやってください。爺の妄言と聞き流してくださってもかまいませんが……犠牲になった人々よりも、残された人の方が辛いときもあるものです。忍は戦うために存在しますが……いつかその忍が、戦うためでなく守るために存在するものになれば……私はもう、思い残すことはありません。
……はい、今までこのことを黙っていたのには、ホタル様の名誉と……私の病気のこともありました。いえ、そんな重いものではありません。見ての通りの老齢、持病は以前からいくつも抱えていました。それに、少し耐えきれなくなってきただけのことです。願わくば、もう1度ホタル様の顔が見たいですが……こうしてお2人のことを伝えられただけでも、私は満足でございます。
こんな老いぼれの話を最後まで聞いてくださり、本当にありがとうございました。……木ノ葉の医療忍者?ええ、とても腕利きの医者が揃っていると、噂に聞いたことがあります。けれど、私には必要ありません。無理をして寿命を延ばそうなど、私には関係のないことですから。ホタル様とウタカタ殿が出会えたことのように、私が死にゆくのも時の
今は少し悲しいですが……私の人生は、幸せなものだったと思います。忍として生きながらも、ここまで長く生存し、可愛い娘のような存在にも出会えた。絶望と希望。人生にはそれが何度も訪れます。けれど見方を変えれば……どっちにも捉えられるんですよね。人間とは、それほど単純な生き物なんです。火影様、どうか、幸せな世を築き上げていってください。こんな辛い思いをするのは、私だけで十分です。」