まわるまわるまわる因果

 熱い、熱い、熱い、熱い。

 身体中が業火に焼かれているように、ひりひりとした痛みが全身を駆け巡る。 生きたまま皮を剥がれるような、耐えようのない苦痛。抑えきれずに口から出た声は、獣の叫びのように洞窟内に木霊する。聴覚は己の叫びで覆われ、その他の音は遮断された。

 熱い、熱い、熱い、痛い。

 もはやどこが痛いのかもわからない。呼吸することもできず、酸欠に呻きながらも、オレはまだ生きていた。見開いた瞳孔に、暗闇で獲物を狙う猛獣のように光る眼差しが数個写った。それが誰なのか確かめる気力は、もう残っていない。

 熱い、痛い、熱い、痛い。

 既に声とは言えない響きになった噪音が、喉を裂く勢いで口から漏れた。全身が焼け、爪が剥がされる。皮膚が爛れていく。度重なる衝撃に麻痺した身体は、もう痛みを感じない。

 ——暁が尾獣の力を狙っているのは聞いていた。風の噂で、他里の人柱力が狩られていることも知っていた。
 それでも、さほど気には留めていなかった。オレの命を狙う者が、またひとつ増えただけだ。殺されるのは癪だからと逃げていても、実際いつ死んでも構わなかった。どうせ何も残らない。影を探し、逃げ回る生活。道具としか見られない人生。全てに嫌気が差していた。
 そう思ってたんだ。死ぬのなんて怖くなかった。消えるのならそれで良かった。なのにどうして、今はこんなに生きていたいんだ。もうどこにも、助かる術は残っていないというのに。

 押し寄せる衝撃は、止む気配がない。何度もオレを苦しめ、邪魔をし、唾棄してきた力は、こんなにもオレと癒着していたのか。
 こいつさえいなければ、オレは命を狙われることもなかった。やはり、人柱力になどなるべきでなかった。里のためとこの身を捧げた浅はかさを、何度後悔しただろう。強すぎる力は畏怖を越え、嫌忌されることは容易に想像できたはずなのに。
 六尾のチャクラが、徐々に身体から抜けていく。それに比例するように、意識も遠のいていく。

 六尾。
 忌み嫌われた力。師匠を殺した力。——ホタルを救った力。

 薄れゆくオレの意識の中で、ひとりの少女が振り向く。
 もう届かない、オレの叫び。もう戻れない、オレの安らぎ。
 最後に見た笑顔を筆頭に、溢れんばかりの走馬燈が思考を駆け巡る。今すぐその元へ帰りたいのに、惨めなオレは、その名を呼ぶことすらできない。
 ホタル、最後にオレは、お前を裏切ってしまった。
 鼻歌を歌いながらオレを待つ背中に向けた別れの言葉は、ホタルに届いたのだろうか。もう戻らないオレの気持ちは、どこまで伝わったのだろうか。

 ホタル、お前は———生きろ。

 全身を覆っていた刺激がはたと止まる。地面に叩きつけられたというのに、声も出ない。
 視界がぼやけていく。思考が鈍っていく。周囲の音が、消えていく。
 そこが暗闇なのか、明るみなのか、わからなかった。浮いているのか沈んでいるのか、何もわからない。
 とうとう呼吸をしている感覚もなくなった。全身から力が抜けていく。五感が遠ざかっていく。

 光が消えた。世界が消えた。


 そうしてオレは————




 ————死んだ。





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