おやすみ、続きは来世で

 暗闇の中で聞こえる呼吸は、とても心地のいいものだ。短く吐かれた息を吸い込み、その全てを食すかのように唇を塞ぐ。甘い情事のなれ果て。お互いの味は、もう知りつくした。名前と同時に吐き出す想いは、ホタルの中に消えていく。

「ウタカタ様ったら、今日は一段と情熱的でしたね」
「そりゃあ、オレだってたまには……な」

 うっとりと横たわるホタルが淡く微笑む。その表情は、いつのまにかあどけない少女から大人の女性のものに変わっていた。誘うように唇をなぞれば、戸惑うどころか舌を絡めてオレの反応を楽しむ。いつからこんな術を覚えたのだろう。オレの記憶が正しければ、ホタルはオレしか知らないはずだ。

「昔はもう少しかわいかったのにな」
「どういう意味ですか?」
「もっと羞恥心があった。それに、うぶだった」
「ウタカタ様が変えたんですよ?」
「そうだろうな」

 体を起こしたホタルが、しなやかな腕を絡める。オレの香りを楽しむかのように首筋を舐め、甘ったるい声で名前を囁いた。ぞくりと、言いようのない痺れが背筋を襲う。

「やめろ。まだ足りないのか」
「足りないと言いますか……ウタカタ様に、触れていたくて」

 体をべたべたと触るホタルを押し倒し、唇が触れる寸前で顔を止める。両眼に映るホタルがぼやけて、そのまま吸い込んでしましそうだ。鼻の先が軽く擦れ、ホタルの吐息が顔にかかる。

「ウタカタ様こそ、足りないんですか?」
「お前がそうさせたんだろう」
「そうやってまた人のせいにして」

 器用にオレの下から抜け出し、楽しそうにころころと笑う。シーツに隠れた体のラインが、オレを挑発するように滑らかに動く。本当にこいつは、いつこんな仕種を覚えたんだ。

「いい加減にしろ、ホタル」
「ひゃっ!」
「そろそろやめないと、明日の修業が延期になるぞ」

 一瞬向けた背中を捕らえ、逃げられないように拘束しながら舌を這わせる。白磁の肌が汚れた禁術に侵されていたのは、もう昔のこと。さっきとは打って変わり甘い声を出すホタルの腰を、人差し指でゆっくりなぞる。

「ウタカタ、さ……ま」
「わかってるだろ?オレを怒らせると怖いって」
「も、もうしません……」
「もう遅い。忍が背中を見せたときは、降参の合図だ」

 素肌を包むシーツを剥げば、ホタルはもう足掻くことはできない。草木が眠りにつくころまでには、こいつも解放してやるか。



(お互い足りないのなら、ちょうどいい。……なァ?ホタル)


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