その残酷で美しい感情に、私は××と名付けたのです。
腕の中で冷たくなっていく男を見つめながら、任務が成功したことに安堵する。作り笑いを浮かべていた唇から、短く息を吐き出し、音も立てずに天井裏から下りてくるウタカタ様を見上げた。暗殺用の仮面が脱ぎ捨てられ、険しい顔で男の脈を確認する。「大丈夫です、ちゃんと死んでますよ」
静かにそう伝えると、ウタカタ様は僅かに目を細めてこちらを見た。じっと貫くような視線は、何を思っているのかわからない。
「だいぶ慣れたな。汚れ仕事にも」
「私だって、忍の端くれですから。……もう、見慣れました」
さっきまで隣で酒を飲み交わしていた男が、今はただの肉塊となってココにいる。それが恐ろしいことだということはわかっている。けれど、これが私たちの仕事だ。
男を惑わすために身につけた花魁の着物に、点々と緋色の染みができていた。男の口から吐かれたのだろうか。生々しいその色に、ウタカタ様にバレないように唇を噛む。
「何もされなかったか」
「はい。抱き寄せられたときには、ウタカタ様のクナイが刺さってましたから」
「…………」
男からクナイが抜かれ、体から男が引き離された。ごろりと転がる姿を見下ろしながら、ウタカタ様がスッと息を吸う。
「任務に私情を挟むのはいけないが……、こいつはホタルに近づきすぎてたな」
うすらと笑みを浮かべながら、淡々とウタカタ様は死体を処理していく。その姿に見とれてしまう私は、きっと以前の私じゃない。
手の甲で口紅を拭い、血のついた着物を脱ぎ捨てた。軽くなった身体に、ウタカタ様に手渡された黒ずくめを身につけていく。
「急ぐぞ。そろそろ人が来る」
「はい」
闇に紛れ、屍を作っていくのは忍なのか死神か。どんな道を進もうとも、私は後悔しないだろう。仮面の隙間から見える後ろ姿を追いながら、声に出さずに××を囁いた。