Vasca da bagno

 湯船に浮かぶ泡を掬って、ふっと息をかける。小さなシャボン玉が風にのってふわふわと浮かび、また浴槽へと落ちていく。

「ホタル、鼻に泡がついてるぞ」
「ん……ウタカタ様、とってください」
「自分でとればいいだろう」

 文句を言いながらも、手を伸ばして鼻を拭ってくれる顔を見つめる。濡れた髪が頬にはりついていて、なんだか色っぽい。泡まみれの私とは反対に、シャワーを浴びたばかりのウタカタ様の身体は綺麗だ。程よい筋肉と濡れた肌。いつも触れている胸板も、今は違った魅力に包まれる。オトコのヒトのカラダに見とれるなんて、私もどうかしてしまった。それもこれも、全部ウタカタ様のせい。

「ウタカタ様の背中って、綺麗ですよね」
「……なんだ、藪から棒に」
「逞しくって、大きくって、なんだか抱きつきたくなります」

 そう言って腕を伸ばして抱きつけば、上半身についていた泡が腕を伝ってウタカタ様の背中に落ちる。項に口付けを落とし距離を縮めて、背中の体温を身体に押し付けた。

「おい……離れろ」
「嫌です」
「襲うぞ」
「どうぞ」
「…………」

 深々とため息をついたウタカタ様は、私の腕を外して首だけこちらに向ける。上気した頬に見とれていたら、頭からお湯をかけられた。

「きゃ……う、何するんですか!」
「こうでもしないと離れないだろう」
「いいじゃないですか、抱きつくくらい」
「抱きつくだけじゃ済みそうにないから言っているんだ」

 それなら、最初から一緒にお風呂になんか入らなければいいのに。頬を膨らませてウタカタ様を見れば、呆れたようにまたため息をつく。いつまでたっても子ども扱い。私だって、そろそろオトナのオンナになってもいい頃なのに。

「私、もう子どもじゃありません」
「子どもじゃなくても、そうやって怒るところはガキだな」
「ウタカタ様が、相手をしてくれないから」
「十分しているだろう。これ以上何をするんだ」
「もっとこう……愛されたいです」

 ウタカタ様に愛されたい。変な意味じゃなくて、ウタカタ様がずっと私だけを見てくれるくらい、魅力的になりたい。ただでさえこんな年の差で、釣り合っているか不安なのに、子ども扱いされたままじゃ、私だって引き下がれない。

「お前……何言ってんだ」
「私だって、ウタカタ様に釣り合うようなオトナのオンナになったんです!だから、もうちょっと、今までと態度を変えてくれたって……」
「もう黙れ。そんなに襲われたいのか」

 湯船に入ったウタカタ様が、私を抱き寄せる。勢いにのって舞った泡が、ひらひらと辺りを漂う。口を開こうとしたら顔を肩口に押しつけられて、唇がウタカタ様の肌にはりついた。

「これ以上騒ぐな。いろいろ限界なんだ」
「…………」
「ったく、人の気持ちも知らないで、愛されたいだのなんだの……」

 ぶつぶつと独り言を言いながら、ウタカタ様は湯船の中の私の身体をゆっくりと撫でた。素肌が触れ合う感触に、うっとりと目を瞑りウタカタ様に手を回す。

「っ!」
「これでも、まだ愛されたいとか言うのか?」
「ウタカタ様!」
「先に上がってるぞ。今のうちに、休んでおくんだな」

 妖しい笑みを残しながら風呂場を出ていくウタカタ様を見つめながら、鈍い痛みの残る首筋を撫でる。いつもウタカタ様は一枚上手。だから適わない。

「ウタカタさまの、ばか」

 熱い湯を頭にかけて、火照った顔を洗い流す。さっきから心臓が鳴りやまないのは、私がウタカタ様に勝てていない証拠。紅い印に残る熱が、やけに痛く疼いた。