僕を置いて、君は大人になる

 空から振ってきたチャクラの塊が、地面に大きな穴を開ける。爆風に薙ぎ倒される木々は衝撃で粉々になり、元の地形がわからなくなるほど崩れていく。シャボンが飛び、弾け、閃光に包まれる。虚しさに覆われる思考とは反対に、体は絶えず攻撃を繰り返していた。辺りは常に轟音に包まれ、その度に体は千切れそして貼りついた。
 生き返ったのかと驚喜したのも束の間だった。天は悉くオレに安らぎを与えたくないらしい。人柱力という名から抜け出せたと思ったら、今度はとんだ殺戮兵器にさせられた。

 あれから幾日が経ったのだろうか。記憶の奥で笑う少女と重なる青色の瞳を見て、感覚だけで息を吐く。オレたちを睨みつけるその瞳は、最後に会ったときよりも少しだけ大人びて見えた。しかし、外見はさほど変わっていない。もしかすると、そこまで時間が経っていないのかもしれない。だとしたら、ホタルは今でもオレのことを――
 一瞬の期待を打ち消すように、項垂れるように首を振った。こんな思いをするのなら、思考ごと操られた方がマシだったのかもしれない。言うことの聞かない体を嘲笑うように、頭の中はどんどん色を失っていった。

 再び合った青い瞳が、苦しげに歪む。誰かに訴えたかったのかもしれない。哀れな自分の人生を、争いに巻き込まれ続けた悲運を、そして、唯一手に入れた希望の光を。同じ枷を背負った人間ならこの思いをわかってくれる――それがいけなかった。吹っ切れたはずの悔恨の念が、言葉になって次々と溢れてしまった。

「ナルト」

 必死にオレを説き伏せようとする少年の声を、なるべく静かな響きで制止した。
 オレの力ならこの術を解けると、本気で言っているのだろうか。このまま、術が解けたとして、オレはどうすればいい?死に損ないの身体だ。ホタルの元へ戻ったところで、一緒にはいられない。あれほど巻き込みたくなかった負の道に、わざわざホタルを引き摺り込むほど、オレは馬鹿じゃない。

 もしも、今、ホタルと逢うことができたなら
 オレはホタルを、殺してしまうのだろうか

 うっかり見てしまった幸せな夢は、まだオレの元から離れそうにない。尾獣を封印したあの日から、人並みを幸せを願うことなど許されないとわかっていたはずなのに、何を今更嘆いているのだろう。
 裏切って、傷つけて、悲しませて、挙げ句の果てに嘘をつかれて置いてけぼりだ。恨まれたって仕方が無い。頑固なほどにオレを信じ続けてくれたホタルも、いい加減愛想が尽きただろう。忘れてほしくはない。だが、それでホタルが笑顔になれるなら、オレの記憶などなくしてしまえばいい。

 オレは夢を見た。とても幸せな夢を。
 青空の下、シャボン玉を飛ばす。それを追いかけるようにホタルが駆けていく。触れても割れないシャボン玉に、笑顔を見せるホタル。それにつられるように、オレも笑う。
 師匠と呼ぶ声、安らかな一時。誰にも邪魔されず、逃げることも隠れることもしなくていい日々。大手を振って、太陽の下を並んで歩く。根無し草だった雑草が、ホタルの元で花を咲かす。

 余計なことを考えるなとでも言うように、頭部に衝撃が走り、意識が遠のいていく。抜かれたはずの六尾のチャクラが、全身を包んだ。
 シャボンが音もなく割れた。咲いたばかりの花は、茶色く朽ちて散っていった。
 オレがホタルの元へ帰ることは、二度とない。







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