愛しい恋人と聖夜の契りを

 大きな窓から見える景色は、まるで素敵な絵画の中に入り込んだみたいだ。シャボンに乗っているときのように、街中の灯が真下に広がっている。
 ひとつ違うのは、ここがシャボンの中ではなく、ベットの中だってこと。聖なる夜は、性なる夜でもあるのだ。
 煌めくイルミネーションを見つめながら、シーツを肩まで引き上げる。熱い夜も、冷めてしまえば冬の室内。エアコンのリモコンを探そうと身体を動かすと、ふいに腕を掴まれた。

「どこに行くんだ?」
「リモコンを探しに。部屋が寒くって」
「確かに、冷えてきたな」

 私の考えに賛同してくれているくせに、ウタカタ様の手は私から離れない。甘えるように胸元に顔を押しつけられて、恥ずかしいやらくすぐったいやら、変な笑い声が出てしまった。

「ねぇウタカタ様。エアコンを付けるにしても、ちゃんと服を着て寝たほうがいいかもしれませんね。今夜は冷えますよ」
「そうだな。クリスマスにふたりして風邪を引いたら、いい笑いものだ」

 会話の内容とは裏腹に、唇はお互いの肌を弄っている。もう何回もした後だというのに、私たちも飽きないな。そんなことを考えながら、シーツに潜り込んでウタカタ様に手を這わす。足が別の生き物みたいに絡み合って、その度に甘い声が漏れた。このままでは、部屋を暖める前に最後までしてしまうと、本能に逆らってウタカタ様から身体を離す。

「ウタカタ様、せめてエアコンだけ、ね?」
「どうせ熱くなって消すはめになる。終わってからでいいだろう」
「終わってからじゃあ、その……動けなくなるじゃないですか」

 言い辛そうに唇を尖らすと、ウタカタ様はやっと私を解放してくれた。急いでテーブルの上にあったリモコンを手に取り、電源を入れる。素っ裸の身体が冷えた空気に触れて、自然と肩がぶるぶる震えた。

「ほら、早く来いよ」
「待って、ついでだから着替えの用意も……」
「そんな格好でうろつくんじゃない」

 散らばった服を拾う前に、腰を抱かれてウタカタ様の腕の中に掴まってしまう。冷えていた身体に、ウタカタ様の体温が心地良い。少し間抜けた体勢のまま、されるがままに身を預けた。
 エアコンから、温かい空気が流れ出している。この空気が部屋を満たす頃には、またシーツの中に潜っているのだろうか。

「いつから、クリスマスは恋人同士のものになったんだろうな」
「え?」
「元は神の生誕を祝う日だろう。少なくとも、オレは神様なんて祝っちゃいない」

 くるりと向きを変えられて、ウタカタ様と向き合う形になる。シーツの中に寝そべったウタカタ様と、その上に乗る私。間抜けた体勢は、変わらないまま。

「ここまでクリスマスを楽しんでおいて、そんなこと言いますか?」
「単純に疑問に思ったんだよ。まあ、起源がどうであれ、ホタルと過ごせればどうでもいいんだが」

 部屋が暖かくなったのを頃合いを見計らったのか、ウタカタ様がシーツの中から身体を引き出した。ベットの上で抱き合って、口付けを交わしたあとに肩に顎を乗せ合う。惰性のような愛の確認。目を閉じれば、静かな室内にお互いの息づかいが響く。

「ホタル。お前は今、幸せか?」
「めずらしいですね。ウタカタ様がそんなことを聞くなんて」
「いいから答えろ」
「幸せに決まってるじゃないですか。そうでなくちゃ、クリスマスをウタカタ様と過ごしたりしません」
「……そうか」

 それきり黙ってしまったウタカタ様に擦り寄って、頬と頬をぴったりくっつけた。エアコンのおかげで、裸のままでいても、肩が震えることはない。

「ホタル」
「はい?」
「……いや、やっぱり今じゃないな。こんな格好じゃあ、上手くいくものもいかなくなる」

 ぶつぶつと呟いたウタカタ様は、いきなり身体を離して、散らばっていた服をベットの上に集め出した。突然のことに目を丸くしていると、私の分の服を胸に押しつけられる。

「とりあえず、着ろ。話はそれからだ」
「どうしたんですか?さっきまでそんな雰囲気じゃなかったのに」
「気が変わった。とにかく服を着てくれ。終わったら……するかもしれないが」

 煮え切らない返事に眉を顰めながら、差し出された服に袖を通す。全部着終えて振り向けば、ウタカタ様は何かを考え込むように窓の外を眺めていた。

「ウタカタ様?何してるんですか?」
「お前……もう着終わったのか」
「ウタカタ様が着ろって言ったんじゃないですか」

 頬を膨らまして、ベットに座るウタカタ様の腰に抱きついた。部屋も暖まったし、このまま眠るのも悪くないかもしれない。
 微睡んできた瞼を合わせると、身体を離されて顔を上に向けられた。閉じかけた目を開ければ、真剣な表情と目が合う。整った顔に、少し眉間に寄っている皺。うっとりと視線を向ければ、肩を強く掴まれた。

「ホタル」

 私の名前を呼ぶ声が、いつになく重く響いた。いつもと違う雰囲気に、目を瞬かせて声に耳を傾ける。

「これからも、オレと一緒にいてくれるか?」
「——?はい、もちろんです」
「……それが、結婚って、意味でもか?」

 え?と口にする前に、顔を胸に押しつけられた。ほっぺたと胸がウタカタ様に当たって、少し痛い。そのせいで、ウタカタ様の鼓動が、全身に響いてきた。赤い顔を見られないようにしたんだろうけど、反って緊張が伝わってくる。いつもより早い鼓動に耳を澄ませながら、目を瞑って唇を開いた。

「突然ですね。今思いついたんですか?」
「ずっと考えていたことだが、今言わなきゃいけないような気がしたんだ」
「それは、今日がクリスマスだからですか?」
「そうかもな」

 緩んだ腕に顔を上げると、穏やかな視線に見つめられる。言葉の意味を反芻したら、私まで鼓動が早くなった。
 熱を帯びていく頬を上げて、ウタカタ様の首に腕を回す。返事は聞かれなくても決まっている。今さら言葉にするのがおかしいくらい、私の中では変わらない答えなのだ。

「クリスマスでもお正月でも、なんてことのない平日でも、私の答えは変わりませんよ」
「クリスマスの勢いでなけりゃ、こんなこと口にできない性格だからな」
「なんなら、裸のまんまでも、私は気にしませんでしたよ?」

 微笑みながら口付けて、身体をベットに押し倒す。この幸せな気持ちのまま眠れたら、そう思って横たえると、シーツを上から被せられた。考えていたことは、お互い同じだったらしい。手の指を絡ませて、もう1度唇を重ねる。温かい空気の中で、シーツの冷たさが心地良い。

「私、ウタカタ様のお嫁さんになるんですね」
「お嫁さんだなんて、可愛い響きだな」
「ふふ、幸せにしてくださいね。これからも、ずっとずっと一緒です」

 性なる夜は、ひょんなことから聖なる夜に戻っていく。クリスマスにした約束は、普通の日よりも強いものになるのだろうか。
 温かい腕の中で目を閉じて、聖夜の力に感謝した。今日は幸せな恋人たちのための夜なのだ。
 手探りでウタカタ様を抱きしめた後に、そっと頬を緩ませる。明日目が覚めたら、私は世界で1番、幸せな女の子になっている。





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