女はね、クリスマスには煩いのよ?

 私の背よりも大きなクリスマスツリーに、てっぺんに輝く大きな星。その下には、これまた大きなプレゼントの箱が置いてあって、赤と緑のチェックが眩しい。ケーキはクリスマスらしいブッシュドノエル。その横には大きなローストチキン。この上ないクリスマスの飾り付けに、私も最初は心が弾んだ。
 でも、最初だけ。クリスマスツリーも時間が経てば見飽きてしまうし、チキンとケーキは食べきって、あとは残骸がお皿の上に乗っているだけ。唯一の救いはプレゼントのテディベアだけれど、それは今日でなくても楽しめる。
 私はもっと、クリスマスを楽しみたいのだ。ツリーもケーキもプレゼントも、ひとりでだってどうにかなる。けれど、それじゃあ意味がない。
 文句を言うようにソファーに座ったウタカタ様をみるけれど、ウタカタ様は私の視線になんか気づかずに、美味しそうにワインを飲んでいる。普段は日本酒のくせに、クリスマスだからって気取っているのかしら。その様子が、まるでひとりでクリスマスを楽しんでいるようで、なんだか気にくわなかった。でもそんなことを言っては喧嘩になってしまうから、黙って砂糖で出来たサンタクロースをフォークでつつく。

「おい、ホタル。食べ物で遊ぶなよ」

 やっと声をかけてくれたと思ったら、そんなこと。とうとう腹が立って、立ち上がってウタカタ様からワイングラスを奪い取った。底の方に少しだけ残っていた液体を飲み干すと、苦くて熱い衝撃が、喉と脳に伝わってくる。

「おい、何をするんだ」
「ウタカタ様が悪いんですよ!ひとりでワインなんか飲んじゃって、私に全然かまってくれないから」

 グラスを放り投げて、唇を尖らせながらウタカタ様を見つめる。ウタカタ様はなんのことだかわからないように、細い目をしきりに瞬かせていた。

「どうしたんだ、そんなに不満げな顔をして。せっかくお前のために、クリスマスの飾り付けまでしたのに」
「それは感謝してます。でも、それだけじゃ足りないんです」

 未だに疑問符を浮かべているウタカタ様は、相変わらず鈍感だ。仕方がないからウタカタ様の膝の上に跨がって、勢いよく唇を押しつけた。少し歯がぶつかってしまったけど、今はそんなことを気にしていられない。
 されるがままになっているウタカタ様を良いことに、今日の不満を全て唇にぶつけた。終いには何でこんなことをしたのかも忘れてしまって、夢中でウタカタ様に口付けていた。息継ぎの途中で名前を呼ばれたことで、やっと我に返る。

「……ちょっと、待て。いきなりなんだ」
「いきなりじゃないです。せっかくのクリスマスなんだから、もっと一緒にいましょうよ」
「いつからクリスマスは、女が積極的になる日になったんだ。まさかお前、あんだけのワインで酔ったんじゃないだろうな?」
「酔ってなんかいませんよ、ウタカタ様のばか」

 太股を動かして身体を擦り寄せると、ウタカタ様はうっ、とかわっ、とか小さい声を出して顔を赤らめた。そうして暫くすると、糸が切れたように私を押し倒して、激しく唇を重ねてきた。
 こんなに早く押し倒されるのなら、シャワーを浴びておけば良かったかも。そんなことを考えながら、目を開けて、私の上に乗るウタカタ様を見つめた。今日は聖夜だ。恋人達のクリスマス。明るい室内でお互いを確かめ合ったって、誰も文句は言わないでしょう?
 次々に床に落とされる服たちは、クリスマスには不釣り合いだ。せっかくの飾り付けを汚してしまっている。でも、私はこれでいい。着飾ったクリスマスなんかよりも、よっぽど魅力的だ。
 蝋燭に火を灯すように、ウタカタ様に熱を与えたい。だらしなく足を開いて、それからウタカタ様を思いきり抱きしめた。私のクリスマスには、この人が居れば充分だ。





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