粉雪とただいま
しんしんと粉雪が降る森の中を、ホタルと並んで歩く。辺りの木々は枝に雪を積もらせ、時折細かい雪の粒を風に靡かせていた。さらさらとした雪は、立ち止まっているとすぐに頭上へと降り積もり、身体を冷やしていく。深い雪に足跡を残しながら、家路へと足を急がせた。こんな日に、風邪は引きたくない。「くしゅん」
そう思っていた矢先に、隣から小さなくしゃみが聞こえてきた。その音に視線をやると、ホタルは赤い指先で鼻を覆い、僅かに肩を振るわせていた。
「寒いですね。こんな大雪ともなると」
首に巻いたマフラーで口元を隠し、ホタルは空を見上げながら眉を垂らした。森中を白銀へと染めた雪は、マフラー程度の防寒具では温められない。ホタルの頭に積もった雪を軽く払ってやり、赤く冷えた指先を握った。けれど自分の指先も冷え切っていて、温めることはできない。それを知りながらも、ホタルはオレの顔を見上げて、嬉しそうに微笑んだ。
「初めてですね。ウタカタ師匠から手を繋いでくれるなんて」
「手を繋いでるわけじゃない。弟子に風邪を引かれたら、師匠の面目が丸つぶれだろう」
言い訳を並べて、ホタルの指に息を吹きかける。吐いた息は白く息づき、すぐに冬に侵蝕されてしまった。どうにかならないかと片眉を下げ、ホタルの顔を見つめる。相変わらずオレを見上げている顔は、普段よりも色白に見えた。反対に鼻先は赤く染まっていて、幼い子どものようにも思える。その様子がおかしくて、思わず笑いをこぼした。
「師匠、どうしたんですか?」
「お前、鼻まで真っ赤だぞ」
笑いながら鼻を摘まむと、ホタルは声を上げて、恥ずかしそうに鼻を隠した。俯いた頭上には、もう新しい雪が積もり始めている。
「隠すなよ、ホタル」
「見ないでください!恥ずかしい」
照れたせいか、ホタルの顔は頬まで赤く染まっている。ぷうと膨らました頬をつついて、頭の雪を払った。不満げに唇を尖らす姿は、宛ら子どものようだ。鼻を覆っていた手を外して、マフラーを鼻まで引き上げてやると、ホタルはやっと顔を上げた。
「むくれるなって。可愛いじゃないか」
「からかわないでください。師匠だって、耳まで真っ赤ですよ?」
ホタルの手が顔の横に伸びて、オレの耳をすっぽり覆う。背伸びをしたホタルが辛くないように顔を近づけると、至近距離で目が合った。マフラーの隙間から見える頬が、真っ赤に染まっている。
「……暖かいですか?ウタカタ師匠」
くぐもったホタルの声が、優しいことに気がついた。短く返事をして、今度はきちんと、ホタルの頭を撫でる。ホタルの手に包まれた耳は、寒さとは違う理由で赤く染まり始めていた。
「そろそろ行くぞ。今日はクリスマスだ。早く家に帰って祝うんだろ?」
耳からホタルの手を外して、しっかりと握りしめる。笑顔で頷いたホタルに微笑みを返して、家路への道を、ゆっくりと歩き始めた。