eat me please.

 甘い香りが漂う部屋で、ウタカタ様に寄り添ってみる。堅い胸板に頬が張り付いて、思わず小さく息を吐く。なんだかとてももどかしい。
 滾る気持ちを抑えきれずに、ウタカタ様の肌にそっと唇を寄せた。甘い香りに酔わされて、思考が微睡む。鎖骨を人差し指でなぞり、首に腕を回す。もっと近くで、ウタカタ様を感じたい。

「なんだ、もう酔いが回ったのか?」

 低い声が耳に届いて、そっと身体を離される。それが寂しくて、熱を纏った視線で見つめたまま、小さく名前を呼んだ。自分の声じゃないみたい。ねっとりと、そそるような響きに、ウタカタ様が眉を顰めたのがわかった。止まらない疼きに、ウタカタ様の腕をとる。このまま、とろけてしまいたい。

「相当だな。ただのチョコレートで酔うとは」

 傍らに置かれたチョコレートファウンテンに、ウタカタ様が苺を絡める。艶やかな焦げ茶色も、今は官能的。口元に持ってこられたそれから、ほろ苦いリキュールの香りが漂ってきた。誘われるままに、口を開く。

「美味いか?」
「はい」
「……足りないって顔してるな」
「全然足りません。もっと……」
「もっと?」
「もっと…………」

 ウタカタ様の指が、チョコレートの中に消える。濡れた指が、物欲しそうに開く唇に触れた。ぬるりと、ウタカタ様の指が口内に侵入する。甘い味と、だらしなく開いた口。
 ぼーっとする思考に、ウタカタ様だけが映し出される。もっと、もっと、ウタカタ様を感じたい。細い指に舌を絡めて、ウタカタ様を見つめる。さっきまで余裕だった視線も、今は同じ、とろけた色。

「……まずいな。抑えきれそうにない」

 顔が近づき、視界がウタカタ様でいっぱいになる。触れた唇に、身体の力が抜けていくのがわかった。途切れ途切れに吸い込む空気が、また脳内を狂わせる。このまま、ウタカタ様の一部になりたい。溢れ出すチョコレートのように、溶け合えてしまえたら。
 離れた唇に、またチョコレートの味が流れ込む。息苦しささえも心地よい。はだけた肌に舌を這わせて、ウタカタ様の味に酔いしれる。理性はとうにとろけてしまった。今宵はこのまま、溺れてしまおう。





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