晴れた昼の空の色

「ウタカタ様、お話って何ですか?」

 ウタカタ様と木ノ葉の活躍によって、禁術を狙っていた盗賊は捕らえられた。あの夜のうちに、盗賊は木ノ葉へと連行され、私は砦へと運ばれたらしい。推量でしかないのは、私は禁術が消え去ったあと、ウタカタ様に抱えられたまま、気を失っていたからだ。遁兵衛によると、丸3日は眠っていたという。だから、こうしてウタカタ様の姿を見るのは久しぶりだった。あんなことが起こったあとのこと、少し顔が合わせづらく、顔を伏せながらウタカタ様の正面に座る。

「体の具合はどうだ」
「すっかり休みましたし、もう平気です。禁術の痕も残りませんでした」
そうか」

 あの日、シラナミによって暴走した禁術は、ウタカタ様の力によって消滅した。お爺様の希望であり、世界をも滅ぼす禁術は、今となっては過去のもの。あれほど執着していたのに、なぜか後悔していない自分がいる。 あの時————破裂寸前の禁術と共に、私は死を選ぼうとしていた。自分の非力さと、浅はかさを、禁術もろとも消してしまいたかった。目を閉じれば、今でも思い出す。大切な人を、傷つけてしまった恐怖。私は、私を信じてくれていた人を裏切って、関係のない人たちまでもを、戦いに巻き込んでしまった。それでも、こうして生きていられるのは、ウタカタ様が、私を救ってくれたから。

「里の復興もだいぶ進んでいる。幸い、里の住人の中で、重傷者は出なかったようだ。シラナミの呪印も解けて……お前に対する偏見もなくなっている」

 ウタカタ様が、姿勢を正してこちらを向き直った。ゆっくり視線を上げると、優しい眼差しが私に向かっている。

「良かったな、ホタル」

 穏やかに緩められた口元に、ウタカタ様の言葉を思い出した。しっかりと抱きしめられた体と、胸を覆った安堵感。全てが終わる瞬間に、ウタカタ様は、私を受け止めてくれていた。その記憶は、蜃気楼のようにぼんやりとしていて、こうしてウタカタ様と向き合っている今も、夢だったのではないかと疑ってしまうほど。それくらい、私にとっては、特別で、大切な言葉だった。

「ウタカタ様、あの……」
「なんだ?」
「……あの言葉は、夢ではないんですよね?私を、ウタカタ様の弟子にしてくださるって…………」

 躊躇う私とは反対に、ウタカタ様はしっかりと頷いた。

「夢なんかじゃない。今まで散々断ってきたが……お前のおかげで、オレは師匠の想いに気づくことができた。だから、今度はオレが与える番だ。里の復興が終わったら、一緒に旅に出よう。今度はちゃんと、修行をつけてやる」




 ウタカタ様の「過去」。ウタカタ様の「師匠」。ウタカタ様の「現在いま」。どれもこれも、私の知らないことばかり。私はウタカタ様の弟子なのに、ウタカタ様のことは何も知らない。師匠師匠と犬のように付いて回り、ただその大きな背中を見つめていた。

 それでも————

 それでも、ウタカタ様が認めてくれた名前だから、私は懲りることなく呼び続けよう。あの眼差しと、ウタカタ様の言葉は、嘘じゃない。私は師匠の弟子として、今も森の中を歩き続けている。


 黄ばんだ地図を見ながら、霧隠れの里を目指して足を進める。砦を出た頃よりは、だいぶ木の数も少なくなってきた。木漏れ日に目を細めながら、また空を仰ぐ。私の大好きな、晴れた昼の空の色。師匠と同じ、暖かい色。

「……え?」

 地響きのような揺れを感じ、空から目を離す。さっきまで、何の変哲もない静かな森だった。けれど、今は何かが違う。不穏な空気に地図をしまい、体を強ばらせながら辺りを見渡した。だんだんと揺れは強くなっていく。それと同時に、木々がなぎ倒される音も聞こえた。何かが、近づいてくる。

「————!!?」

 声を上げる間もなく、体が宙に浮かぶ。
 反転する視界に、綺麗な空が映ったあと、強い衝撃と共に、何もわからなくなった。




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