もう少し2人きりで、ね
「私、ウタカタ様との子どもがほしいです」「ぶっ……!」
冬の香りがだんだんと消え、春の陽射しが感じられるようになった午後、オレの着物はびしょ濡れになった。その原因を作った女は、「大変!」なんて言いながら台所へ布巾を取りに駆けていく。
「どうしたんですか?いきなりお茶を吹くなんて……」
「お前のせいだろ」
「え?」
きょとんとするホタルは、さっきの発言がどれほど重要なことか気づいていないらしい。子どもがほしい、なんて……あんなにあっさり、しかも今言う台詞かよ。
「お前、子どもの作り方知ってんのか」
「——? コウノトリが連れてくるんですよね?」
「……はぁ」
やっぱりな。こいつの常識知らずにはもう慣れた。今どき本気でコウノトリなんてものを信じているやつがいるなんて、逆に尊敬する。
「こうやってウタカタ様と暮らすようになって、私、すごく幸せなんです。だから、ウタカタ様との子どもがいれば、もっと幸せかなって」
「……ホタル」
しゃがんでオレの膝を拭いていたホタルの頬を両手で包む。オレを見つめるホタルと目を合わせたあと、だんだんと顔を近づけて……
「お前は馬鹿か」
「ひゃい?」
柔らかい頬をぐにっと掴み、ホタルの顔を歪める。両頬を挟まれたまま話す女は、何のことを言われているかわからない様子だった。
「子どもがほしい、なんて簡単に言うな」
「え……ウタカタ様、私との子どもは嫌なんですか?」
「っ〜!そうじゃなくてだな」
ホタルの手から布巾を取り上げ、座っていたソファーに押し倒す。何をされるかわかっていないホタルは、耳許で囁いたオレの声に顔を赤らめた。
「……まずは子どもの作り方、お前に教えないと……だろ?」
(子どもがいたら、自由にできないもんな)