05 // 秘める

 ホタルの体、輪郭をなぞるように手の平を這わした。自分のと違う、柔らかい感触が手の平を通して脳へ伝わる。近くにある髪から香る甘さは、まるで媚薬のよう。体内をホタルでいっぱいにしたいのに、途中で理性が壊れそうになり止めてしまう。
 こんなあどけない顔をして、オレを乱すなんて——オレにとってホタルは、想像以上に危険な存在なのかもしれない。

「ウタカタ様、くすぐったいです」

 ころころと愛らしい笑い声を鳴らしながら、ホタルは身をよじる。その仕種にさえ翻弄され、オレはホタルへ落ちていく。一瞬の表情も見逃さないように視線をホタルへ向け、自分でもわかるほどに焦がれ瞳にホタルを映す。

「ウタカタ様、もしかして風邪を引いていますか?」
「引いてないが、どうしてだ?」
「だって、お顔がとっても赤いです。それに、目もとろんってしてますし」

 ホタルの手がオレの頬に触れ、「いつもよりあったかい」と無邪気に微笑む。こいつはオレの、獣ように汚れた心のうちを知らない。年端もいかない少女に、そのような知識があっても困るが、些か鈍感すぎる。無知ゆえの純潔。そうやって無意識に近づけられる顔だって、オレを乱して仕方ないのに。

「それとも、部屋の温度が高いのでしょうか。ストーブを消したほうが……」
「平気だ。それよりも、ホタル」
「はい」

 ホタルの体をこちらへ向け、ぷっくりと艶やかな唇へ指を這わせる。一瞬たじろいだホタルも、すぐにオレを受け入れて薄く唇を開く。ちらりと見えた赤い舌に、汚れた妄想が脳内を巡る。なんとか唇を重ねるだけに留め、かわりにホタルを抱きしめた。
 髪の間に手の平を差し込み、体を密着させる。強く、優しく、沸き上がる想いを、押し殺すように。

「ウタカタ様、今、何を考えているのですか?心臓がドキドキ言ってます」
「…………ホタルのことだ」
「ふふっ。嬉しい」

 背中に腕を回すホタルの柔らかさに惑わされないように、ホタルの体を手の平でなぞった。
 今はまだ、汚してはいけない。ホタルは娼婦でもなければ、経験豊富な女でもない。
 まだ、何も知らない、純一無雑な少女。急がず、焦らず、ゆっくりと、教えていきたい。オレがどんなにホタルを愛しているかを、ホタルの知らない艶やかな愛を。

「私もウタカタ様のことを考えるとドキドキするんです。どうしてか知ってますか?」
「さあ……どうしてだ?」
「ウタカタ様を、愛しているからです!」

 満面の笑みに、可愛らしい口付け。心底嬉しそうにオレの胸に頬擦りをし、安心しきって体を押し付ける。まだ少女なオレの恋人は、自分がどんなに魅力的だか知らない。
 その髪も、その声も、その唇も、その胸も。オレを掻き乱すには、十分すぎる材料。でも、まだ教えてはいけない。だからオレは、ホタルを撫でるように体をなぞる。そこに秘めた下心を知るのは、オレひとり。





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