04 // 突き放す
オレから離れてほしかった。オレに関わらないでほしかった。どこか遠くに、行ってほしかった。「ウタカタ様」
名前なんて、呼ばなくていい。これ以上オレに近づくな。お前は、幸せになるべきなんだ。優しく可憐なその笑みは、すれ違う人をも魅了する。オレじゃなくても、他の誰かが幸せにしてくれるさ。
「嫌です、私はウタカタ様がいいんです」
「無理だ。オレはお前を幸せにはできない」
「そんなことありません。私はウタカタ様と一緒にいるだけで……今この瞬間も、幸せなんです」
哀願する目はあどけなく、薄汚れたオレには似合わない。可愛く愛らしい、できることなら今すぐにでも抱きしめたい。でも、それをしてしまったら、こいつは——
「…………」
「ウタカタ様、」
「……諦めろ」
オレもお前といることを諦める。お前の幸せは、オレといることじゃない。ただ平凡に、生きていくことだ。だから、だからお前を守るために、諦めてくれ。諦めさせてくれ。
「お願いだ」
「……嫌です」
「でないとお前は、」
「私は言いました。ウタカタ様と一緒にいるのが、私の幸せだと。だから—私の幸せを願うのなら、私の傍にいてください。ウタカタ様の傍にいさせてください」
震える体を抱きしめてやれたら、どんなに幸せなんだろう。こいつがどんなに訴えたところで、オレといることの幸せなんて存在しないんだ。自分の幸せか、愛した女の幸せを選ぶのか、そんな選択は愚問だ。
「諦めるんだ。お前のためにも」
「……絶対に、嫌です」
「だから、」
「私はウタカタ様から離れません!何があろうと、どんな目に遭おうと、……ウタカタ様と一緒にいることで不幸になるというなら、それさえ私にとっては幸せなんです」
意志が灯る瞳、揺らぐオレの決意。諦めると、決めたんだ。頼むから離れてくれ。オレは、お前を抱きしめることはできない。……できないんだ。