03 // 望む
遠い世界の夢を見た。そこにいるのは確かにオレなのに、オレじゃない。魂を縛られ、兵器のように人を殺し、声にならない悲鳴を、誰にも気づかれることなくあげる。目を覚ませば、自分が震えていることに気がついた。全身に鳥肌が立ち、嫌な汗までかいている。
恐ろしい世界。何人もの忍が、死すら与えられず、ひたすらに散っていく戦場。塵で作られた体は、所詮塵でしかない。そに「命」は存在しない。
「ウタカタ様?どうかされましたか?」
荒い呼吸に目を覚ましたホタルが、心配するように眉を垂らしオレに触れる。その動作に、思わずホタルを抱きしめた。暗い部屋の中、ホタルの温もりだけが確かな存在としてオレに伝わる。この瞬間に信じられる、唯一の現実。
「ウタカタ様?大丈夫ですか?」
「ああ……。大丈夫、だ」
「でも、こんなに震えて……。……何か、悪い夢でも見たのですか?」
「…………ああ。とても悪い、夢を見た」
ホタルにそう答えながら、オレは知っていた。あれは夢なんかじゃない。
遠い世界、決して交わることのない、平行線上の世界。オレは人柱力として死に、そして殺戮兵器として蘇る。そこに命は存在しない。そこに光は存在しない。
「ウタカタ様?ほんとうに、大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。ホタルがこうしてくれていれば、オレは」
「ずっとこうしていますよ。私はウタカタ様から離れません。どんな時も、どんな世界でも」
ホタルがオレの背中に手を回し、温もりを与えるように体を寄せた。遠い世界のオレは、今も暗い棺桶の中、ひとり涙を流している。願わくば、どうか彼にも安らぎを。
現実に安らぐオレに、この幸せがどんなに大切なものか教えてくれた。命の危険に怯えることなく、愛する人と、明日を向かえられる。誰かが自分を心から想い、抱きしめてくれる。
「ホタル、ありがとう。起こして悪かったな」
「大丈夫です。ウタカタ様は、もう眠れそうですか?」
「ああ。大分落ち着いた」
「そうですか。なら、今度は悪い夢を見ないように、私が手を握っていてあげますね。これで怖くありません」
「ふ……。まるでオレが子どもみたいだな」
ホタルの笑顔に安堵しながら、ゆっくりと瞼を下ろした。この幸せがずっと続いてほしい。ホタルと共に明日が向かえられれば、それだけでいいから。