01 // 懐かしむ

 縁側に1人腰かけ、穏やかに揺れる花を見つめた。夕と夜の境目の空が、薄い紫に染まって、昔の記憶を呼び起こす。

「私を、ウタカタ様の弟子にしてください!」

 何度も聞いたこの台詞。今も色褪せず、オレの耳に残るホタルの声。何度も拒否して、それでも諦めず、オレに大切なことを教えてくれた、たった1人の女。

「ウタカタ様」

 あの頃と同じように澄んだ声で、ホタルがオレの名を呼んだ。髪も伸び、少し大人っぽくなった微笑みと、大きな花束を携え、オレの隣に座る。

「何をしてたんですか?」
「思い出してたんだ、色んなこと」
「昔をですか?」
「ああ」

 ホタルが抱いた花束から漂う甘い香りが鼻をくすぐる。優しい眼差しは昔と同じ。違うことと言えば、オレがホタルを前よりずっと好きだということだろう。

「懐かしいですね。あっという間に、もう10年も」
「早かったな、今まで」
「子どもたちからこんなに綺麗な花束までもらえて、……幸せ者です。私たち」

 ホタルと過ごした1日1日。ずっと愛しく思っているのに、次の瞬間にはもっと恋焦がれていて。
 小さな肩を抱いて、淡い色をした髪に口づけた。

「まだ10年だ。あと100年は一緒にいなきゃ気がすまない」
「100年だけですか?」
「お前が望むなら、何億年でも」

 微笑んだホタルは美しい。今またこの瞬間、オレはホタルに何度目の恋をしただろう。風がホタルの髪を揺らし、甘い香りを運ぶ。

「本当、何度見ても綺麗だな」
「ええ。枯れないうちに、早く生けちゃわないと」
「ホタル、お前のことだよ」

 どんなに綺麗な空や、どんなに美しい花だって、ホタルに敵うものなんて存在しない。これからもずっとオレの傍にいて、その綺麗な声で名前を呼んでくれ。
 重なった唇にまた愛が増えていく。くすんだ銀がまた輝き始めるとき、オレはホタルに恋をする。





Thanks for 確かに恋だった