腰 -束縛-

 白いシーツの敷かれたベットに腰掛けると、マットレスが鈍い悲鳴を上げた。物音がしたことでオレの気配に気づいたのか、ホタルが顔を上げる。けれど、その瞳にオレは映らない。黒い布で目隠しをされ、口まで塞がれたホタルは、怯えるようにオレの気配を追った。ベットに繋がれた鎖は、ホタルの手枷まで繋がっている。我ながら、気味の悪い趣味をしている。そう思いながらも、目の前の状況に興奮を覚えずにはいられなかった。やっと欲しいものが手に入ったという高揚感と、恍惚とした気持ちが、腹の底から湧き上がってくる。
 ホタルの腰の横に手を付き、顔を近づけてその姿を眺める。口元に巻かれた布が、ホタルの唾液で濡れていた。それと同じように、黒い布も僅かに染みができている。こっちは、ホタルの涙だろうか。
 ホタルの身体に触れないように注意しながら、ゆっくりとその身体を組み敷いた。不安げに首がうごき、微かな呻き声も聞こえてくる。ホタルの眉間に皺が寄る度に、ぞくぞくと、背筋が悦びに震えた。身体が触れ合うぎりぎりまで距離を縮め、ホタルの匂いを嗅いでみる。仄かな汗の匂いと髪の香りが、気持ちを高ぶらせていった。

「ただいま、ホタル」

 頬を撫でながら声をかけると、ホタルの身体がびくりとしなった。そうして暗闇の向こうにいる相手がオレだとわかると、眉間の皺を解き、懇願するように顎を上に向ける。

「駄目だ。まだ放してやらない。やっとお前が手に入ったんだ。これからはずっと一緒だ」

 耳元で囁きながら身体に手を這わすと、ホタルはあからさまに顔を背けた。オレを拒否するような態度が気に食わず、思わず触れていた場所に力を込める。痛みに驚いたのか、ホタルはくぐもった悲鳴を上げて顔を俯かせた。大人しくなったのを良いことに、膝を開いてホタルの足の間に身体を捻り込んだ。スカートの隙間から、白く艶めかしい足が真っ直ぐに伸びている。その中に手を入れて、太股をじっくりと撫で回した。ホタルは拒むように足を閉じようとするが、所詮無力な抵抗だった。布の上から唇を重ね、ホタルの服を脱がしていく。布一枚だけになった下半身が恥ずかしいのか、ホタルは何度も首を横に振った。

「嫌がるなよ、ホタル」

 優しく囁いて頭を撫でてみるが、ホタルの態度は変わらない。仕方なく目隠しを解いてみると、赤く腫れた瞼と目が合った。唇の隙間から唸り声を出しながら、乞うようにオレを見つめている。
 その瞳が、オレだけを見ていることに、ひどく満足した。きっとホタルは今、オレのことしか考えていないのだろう。それでいい。それがオレの望みだった。オレだけを見て、オレのことだけを考えて、オレだけが触れられる。そんなホタルのことを、オレは、誰よりも愛しているのだから。

「大丈夫だ。オレが傍にいる」

 露わになった腰を撫でて、骨盤の上辺りに思い切り噛みついた。ホタルの高い悲鳴が、喘ぎ声のように部屋に響く。歯形の付いた箇所を撫でて、恐怖に震えるホタルの瞳を見つめた。ああ、その顔。なんて魅力的なんだろう。嫌がるホタルの顎を無理矢理掴んで、布の間から舌をねじ込んだ。横たえていた背中に手を差し入れて、身体を密着させる。
 やがてはホタルも、この幸せに気づいてくれるだろう。邪魔する者など誰もいない、ふたりだけの箱庭の素晴らしさに。
 涙の跡を舐めとりながら、できるだけ優しく名前を呼んだ。ホタルがオレ以外を必要としなくなるまで、オレはホタルを縛り付けなければいけない。
 ホタルの匂いに顔を埋めて、恍惚の瞬間に声を漏らした。オレの、オレだけのホタル。他には何もいらない。何もいらない。赤い噛み痕を指で辿り、ホタルを抱きしめて瞼を閉じる。両腕でホタルを壊してしまわぬよう、優しく、愛の言葉を囁いた。





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