冬恋ワルツ
冬の景色は好きだ。世界が白銀に染まり、全ての音を消してくれる。寒さに震える木々にもたれ、1人シャボン玉を吹く。ひとつ、ふたつ。
「ウタカタ様、ここにいたんですね」
パチン。生まれたばかりのシャボン玉が割れた。声がした方を見れば、鼻を赤くしたホタルが小さな雪だるまを持って立っていた。
「見てください。可愛いでしょう?」
「……ガキかよ」
「だって、せっかくの雪ですし」
上着を羽織っているとはいえ、ホタルの体は寒さに震えている。小さな雪だるまを差し出した両手も、赤い色に染まっていた。
「雪を見るのも触るのも初めてなんです。砦には1回も降らなかったし」
「そうか」
「ウタカタ様は、見たことありましたか?」
オレを見つめるホタルの前に、ほろりと雪が降ってきた。寒さが広がる。
「ああ。雪は結構好きだしな」
「そうですか」
「……なんか嬉しそうだな」
「だって」
風がホタルの髪と雪を舞い上がらせる。雪だるまの頭が傾いた。冬の空に、ホタルの声が響く。
「ウタカタ様の好きなもの、また1個知れたから」
赤くなった頬。小さな指は寒さに震え、吐く息は白く残る。
なんだか、ホタルが消えそうな気がした。
「ウタカタ様?」
「寒いな」
「……今は温かいです」
冬の景色は好きだ。全ての音を消してくれる。 けれど、これだけは消さないでくれ。やっと見つけた、オレの旋律。
(彩る白雪、冴ゆ冬空、だからその手を引き寄せた)