秋陽アルペジオ
鈴虫の音色が風にのって響く。明かりを灯していないこの部屋は、だんだんと暗くなっていた。「ウタカタ様……」
夕焼けに染まる白い肌に、また1つ、紅い口付けを落とす。同時に漏れる甘い声は、優艶な秋によく似合う。
溶けるように、纏わりつくように。ホタルの身体を弄れば、離れていた音がひとつになる。
「ホタル」
どうしてかもどかしい。やっと1つになった和音も、時が経てばまた分散される。舌を絡ませ腕は腰を引き寄せる。それでも、まだ離れてしまう。
芒が風にそって揺れた。何も纏っていない身体には、少し肌寒い。ホタルとぴったり寄り添い、その息遣いを耳許で聴く。
「ウタカタ様」
「なんだ?」
「夕焼けが、綺麗ですよ」
少し身体を起こして外を見れば、大きな夕焼けが、辺りを紅緋に変えていた。2人の間を風が吹き抜ける。
「少し、寒いか」
「大丈夫です。ウタカタ様」
「ん、」
「もっと、近くに」
風が散らした音がまた1つに寄り添う。遠くで鳴く鈴虫の音色が、物悲しげに響いた。
(柔い黄昏、揺る秋草、鮮やかに軽やかに密やかに)