春彩プレリュード
青い香りが鼻をくすぐる。待ち焦がれた春の訪れに鵯が歌い、白い雲を撒き散らした。「ホタル」
「ウタカタ様」
生い茂る緑の中にいた、ホタルの隣に座る。春の暖かさが心地いい。体を伸ばした後、芝生に寝そべれば、草に混じってホタルの甘い香りがした。
「こんな良いお天気なのに、お昼寝ですか?」
「こんな天気は昼寝日和だろ?ホタルも来いよ」
ホタルの腕を引き、無理矢理隣に寝かせた。傍に咲いていた赤い花弁が舞い上がり、2人の周りにくるくると落ちる。
「春の匂いがしますね」
「そうだな」
自然と繋がれた手に触れながら、青い空に昔を思い出す。思えば、あの日もこんな青い空だった。
「ん……、私も眠くなってきました……」
傷だらけの体も心も、全部ホタルによって癒されてきた。目を閉じるホタルの頬に口付け、甘い香りを感じながら眠りにつく。
「おやすみ、ホタル」
この暖かさは、春の陽気か、それともホタルの温もりなのか。
巡り巡った春が、また2人を奏で始めた。
(踊る薄紅、歌う春色、それは日差しに乗せて)