バカなオンナ

「ウタカタ師匠」
「師匠と呼ぶな」
「どうしてですか?」
「お前には関係ない」

 狭い砦の中で、この女から逃げるのは不可能だった。しかも砦ここは、この子の家のようなもの。よそ者のオレが、どうこうできるわけがない。

「ウタカタ様!!」
「ったく……どうしてお前はオレについてくる」
「ウタカタ様の弟子になりたいからです!」
「そうじゃない……もっと具体的に、言ってみろ」
「え……?」

 どうしてこの女はオレにつきまとうんだ。どんなに冷たくしたって、どんなに遠くに逃げたって、真っ直ぐな瞳を据えて、オレを追いかけてくる。

「そんなの簡単です。私はウタカタ様が好きだからです」

 自信に満ちた、満面の笑み。その表情にオレは確信する。こいつはバカだ。純粋すぎて疑うということを知らない。オレに惚れて、幸せな人生が歩めるものか。オレみたいな化け物に惚れられて、幸せになれるものか。
 バカなオンナ。それ以上にバカな、オレがいる。




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