誇らしげに、吠えた。
忍が、ましてや修行の旅に出ている人間が、仔犬など飼えるはずがない。たとえ雨に濡れて鳴いていようとも、お腹を空かせて鳴いていようとも、どうしようもできないことなんだ。「……じゃあせめて、次の街に行くまで、一緒に行動させてください。そこで飼い主を見つけて、――この子が幸せになれる場所を、見つけてあげてから……」
ホタルの腕に抱きしめられた仔犬は、どこかで見たことのある純粋無垢な眼差しでオレを見つめていた。元々動物は好きじゃないが、こんな瞳で見つめられたら、オレも人の子。多少の情は湧いてしまう。
「……わかった。次の街に着くまでだぞ。その先は駄目だ」
「ありがとうございます!ウタカタ様!!」
良かったね、わんちゃん。仔犬を抱え上げながら笑うホタルは、心底嬉しそうだ。その様子を半ば呆れて見ていれば、仔犬の舌が、ホタルの唇を舐める。
「んな!!?」
「きゃっ、くすぐったいよ。あはっ」
なんてこった。大切な大切な弟子のファーストキスを、こんな仔犬に奪われるなんて。
「ホタル!今すぐその犬ころをオレに寄こせ!!」
「え?どうしてですか?」
「これ以上ホタルを汚されてたまるか……」
無理矢理ホタルから仔犬を奪い、キッとした目で睨みつけた。当の本人は何を怒られているのかわかった様子はなく、嬉しそうに尻尾を振っている。
「わん!」
「この子、ウタカタ様に抱っこされて嬉しそう」
「んなわけないだろ……」
「わんわん!」
どこか誇らしげに吠えるこの犬は、やっぱりホタルに似ている。どんなに怒って呆れたって、結局はその笑顔にやられてしまうんだ。