聞こえたのは
現実と夢の狭間。こういうときに思い出すのは、決まってあの日のこと。死と生の境目。命が体から離れていく感覚。もうあれから何年も経つのに、未だに頭から離れない浮遊感。このまま夢に落ちるか目を覚ますのか。オレは一体、どこにいるんだ。
「……ま?ウタカタ様?」
聞こえた声に目を開ければ、そこにはオレの顔を覗き込むホタル。ハの字に垂れ下がった眉をじっと見つめていたら、ホタルの手が頬に当たった。その温かさに、体がびくりと跳ねる。
「大丈夫ですか?だいぶ魘されていたみたいですが……」
「あ、ああ……。ちょっと、夢を見ていたみたいだ」
「夢?」
「ああ」
夢に落ち、体を手放そうとしたとき、聞こえたのはホタルの声だった。いつだってオレを現実に引き戻してくれる、優しい声。