報告四 葛城ホタルの手記・2

「ウタカタ様が消えてしまってから、私は全てを失いました。何も考えられなかった。何も考えたくなかった。心の中が、からっぽになってしまったんです。毎日泣いて……その記憶しかありません。遁兵衛のことも、忘れていました。私の頭の中は、ウタカタ様でいっぱいでした。

 どれくらい時間が経ったでしょうか。私はウタカタ様を探しに行く決心をしました。このまま閉じこもって泣いていても、何も変わらない……。旅の支度をして、早々に家を出ました。歩いているのももどかしくて、私はひたすらに走りました。もしかしたら、ウタカタ様はまだどこかにいるかもしれない。霧隠れの里に、まだいるのかもしれない。無情な希望だけが、私を動かしていました。ウタカタ様に会いたい。ただそれだけでした。それ以上も、それ以下でもない。ウタカタ様に会えれば、それだけで良かったんです。ウタカタ様が生きていてくれれば、それだけで良かったんです。

 どれくらい走ったのか……。花畑を越え、いつかナルトさん達と歩いた森を抜け、気づけば静かな川原に辿り着いていました。ここは、ウタカタ様との思い出の場所です。私が初めてウタカタ様に背中の秘密を打ち明けて、ウタカタ様が初めて私の名前を呼んでくれて……。冷たい水に手を浸し、ウタカタ様を思い出しました。優しいのに、それを隠そうと悪ぶって。そんなところも大好きだった。ううん、今も大好きなんです。目を閉じてウタカタ様を想ったあと、私はまた走り出しました。ウタカタ様を追って、深い深い森の中に。」





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