報告三 葛城ホタルについて

「ウタカタ殿の行方がわからなくなって……1週間と3日ほどでしょうか。ホタル様が、泣きながら帰ってきたのです。理由を聞いても、何も話してくれませんでした。泣きながら譫言のように『ウタカタ様が消えてしまった』と何度も言っておりました。先ほどホタル様のあんなに嬉しそうな顔は見たことがないと言いましたが……あんなに悲しそうな顔も、見たことがありませんでした。悲しいなんて言葉じゃ足りません。あれほどまでに絶望に満ちた表情を、今までに見たことがあったでしょうか。できることなら、一生見たことのないままでいたかった。
 ホタル様は何日も泣き続けました。まるで今まで我慢していたものがすべて爆発してしまったかのように。そして、一言も話さなくなってしまったのです。あんなに明るかったホタル様が、まるで生気の抜けた人形のように……。

 それからは地獄の日々でした。私も見ての通りの老齢、人生の悲痛さは、身をもって経験してきました。その私でも、あんなに辛いと思ったことはありません。今まで手塩をかけて育ててきた娘のような存在だったホタル様が、廃人のようになってしまったのです。
 何を言っても、何をしても、ホタル様は全く反応を返しませんでした。時々何かに怯えるように震え、そして泣いていました。私はただ、慰めることしかできなかった。空虚な言葉をかけたところで、ホタル様の悲しみが癒えるはずもない。こんなときウタカタ殿がいれば……そんなことばかり考えていました。
 我ながら浅はかな考えだったと思います。ホタル様がこうなった原因は、ウタカタ殿にあるというのに。泣き続けるホタル様を抱きしめながら、ウタカタ殿を恨みました。どうしてホタル様を置いていったんだ、と。やりようのない悲しみを、所在もわからないウタカタ殿にぶつけました。

 ホタル様は……本当にウタカタ殿を慕っていたのだと思います。師匠としてだけでなく、異性としても。幼い頃から砦で育ってきたホタル様にとって、きっとあれが初恋だったのでしょう。ウタカタ殿と出会って、砦で世話をするようになってから、ホタル様はいつも楽しそうでした。暇があればウタカタ殿の話をして、容姿に気をつかってみたり……微笑ましい光景でした。
 いつだったでしょうか?ウタカタ殿にホタル様を守ってやってほしいとお願いしたことがあります。そのときは断られてしまいましたが、私の中では、いつか2人が夫婦になってくれればと、そう思っていたのです。ホタル様の喜ぶ顔を、ずっと見ていたかった。私が死んでもホタル様が独りにならないように、ホタル様を守ってくださる人が欲しかった。ウタカタ殿は、そのどちらも叶えてくれるお方だと、そう思っておりました。その矢先の、失踪。こんなことを言っては何ですが、ウタカタ殿とホタル様は出会うべきでなかった、……そう考えてしまうほど、辛い日々でした。ウタカタ殿への感謝も憤りも、2度と忘れることはないでしょう。
 ……ホタル様、ですか?あれからしばらくは、ずっとあのままでした。1ヶ月が経った頃でしょうか。ふいに思い立ったかのように、ウタカタ殿を探しに行くと言い出したのです。今思えば、あの時止めておけば良かった。そうすれば今頃ホタル様は……いえ、これはまた後で話しましょう。今はこの、ホタル様の想いを、消してしまわぬよう、1人でも多くの人に伝えたいのです。」





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