報告二 遁兵衛の付与による、葛城ホタルの手記

「ウタカタ様は確かに言ったんです。『すぐに戻る』と。私はウタカタ様と旅に出られるのが嬉しくて……だってずっと、ずっと師匠と呼ばれることを拒んでいたウタカタ様が、やっと了承してくれて、これから、だったんです……。だから、詳しいことは聞きませんでした。ウタカタ様はすぐに戻ってくる、そのことを信じて疑わなかったんです。

 けれど、ウタカタ様は帰ってきませんでした。どこからか飛んできたシャボン玉がひとつ、またひとつと消え、最後のひとつになった時、私は里へと帰ることを決めました。辺りはすっかり暗くなって、少なくとも半日は待っていたはずです。辛くなんてありませんでした。ただ約束を破られたことが、少し悲しかったです。最後のシャボン玉は、里へ帰る私の後をずっとついてきました。ツルギさんとの話が終わるまで、ウタカタ様が飛ばした護衛なんだと、そう思ってました。

 3日経っても、1週間経っても、ウタカタ様は帰ってきませんでした。遁兵衛の話が正しければ、ウタカタ様はもう帰ってきてもいいはずでした。それでも帰ってこなかったんです。いつものようにあの場所で、思い出の岩に座りながら、ウタカタ様の分身を見つめていました。きっと、何も考えてなかったと思います。ウタカタ様と別れてから、頭の中がウタカタ様でいっぱいになって……。我に返ったのは、ウタカタ様のシャボン玉が割れた時でした。パチンと音もせず、静かに飛沫だけ飛ばして。消えてしまったんです。ウタカタ様の分身が、ウタカタ様が、消えてしまったんです。その時初めて、涙が流れました。ウタカタ様がいなくなってから、初めて。

 星より遠いところへ、ウタカタ様は逝ってしまったんです。

 もう2度と、私はウタカタ様に会えないんです。」





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