報告一 土蜘蛛一族の長、遁兵衛の話
「これはこれは、遠いところからご足労いただきありがとうございます。貴方様とお会いするのは5年ぶりになりますか。ええ、お懐かしゅうございます。今回木ノ葉に協力を要請したのは他でもありません。5年前に行方を晦した、ウタカタ殿についてのことです。……仰るとおりでございます。もっと早く頼んでいれば、今頃ウタカタ殿もこちらに帰ってきたやもしれません。しかし、今まで黙っていたのには、深い理由があるのです。第4次忍界大戦の勃発の裏で起こっていたウタカタ殿とホタル様の物語……長くなりますが、聞いていただけるでしょうか?
禁術の一件も一息つき、木ノ葉の方々が帰路に就いた頃です。ええ、ウタカタ殿とホタル様は貴方方を見送ったあと、すぐに旅へ出かけました。その時のホタル様はとても嬉しそうで……親代わりになって何年も育ててきましたが、あんなに嬉しそうな顔は初めて見ました。それはそれは、可憐な花のようで……、すみません。話が逸れてしまいましたね。とにもかくにも、ホタル様とウタカタ殿は特に変わった様子もなく旅に出たのです。もの悲しさを感じながらも、いつか逞しくなって帰ってくる 2人の姿を思い浮かべ、少し嬉しくなったものです。2人が帰ってくるのは何年後か……そんなことを考えておりました。
しかし、そんな考えはすぐに打ち壊されました。ホタル様はその晩、帰ってきたのです。……いいえ、1人で。詳しくは話してくれませんでした。ただ悲しそうな笑顔で『ツルギさんたちとの話が長引いてるみたい』と一言呟いて、そのまま部屋に閉じこもってしまいました。
ウタカタ殿の生い立ちが普通でないことは薄々気づいておりました。簡単に旅に出られないことも……。話が長引くと言っても、せいぜい1週間程度だと思っておりました。落ち込むホタル様を慰め、2人でウタカタ殿の帰りを待ったものです。しかし……ウタカタ殿は帰ってこなかった。5年が経った今でも、行方がわからないままなのです。ウタカタ殿は確かに普通とは違う生い立ちを辿った……世間からは嫌われる存在だったかもしれません。しかし誰よりもホタル様を想い、弟子として迎えいれてくれたのです。そんな心優しい人が、これからというときに、『ここで待っていろ』とまで言って、ホタル様を置いていくとは考えられないのです。知っていることは全て話します。5年の間、口を噤んでいたことも全て……。だからどうか、お2人を救ってやってほしいのです。彼らはこの世界の誰よりも、平穏と幸せを願っていたでしょうから。」