あの幸せをもう一度

 ソファーに座るウタカタ様に、そっと頭を預けてみた。上目遣いにウタカタ様を見ていたら、そっと微笑んで髪を撫でてくれる。

「めずらしいな」
「久しぶりに、ウタカタ様に甘えてみたくなって」
「ははっ……もうすっかり、この生活になれちまったからな」

 苦笑いを浮かべながら少し向こうにいる子供たちを見つめたウタカタ様。その視線に気づいたシオンが、手に持ったブロックでこちらを指さしながら大声をあげた。

「あー!お父さんとお母さんがいちゃいちゃしてるー!」
「ずるいっ、ボタンもいちゃいちゃするー!」

 シオンの声を聞いたボタンがウタカタ様に抱きつき、左手で私の手を握った。行くあてをなくしたブロックを玩んでいるシオンが、何か言いたけな顔でこちらを見る。

「シオンも来いよ」
「行かないよ。オレは男だ、姉ちゃんやお母さんみたいに、お父さんに甘えるなんて……」
「シオン、おいでよ。お父さんもお母さんもあったかいよ。この前読んでもらった絵本と一緒」
「…………」

 ボタンの言葉に、シオンが渋々といった様子でウタカタ様の膝に乗った。不機嫌そうに尖っていた唇も、そっと撫でてあげればすぐに綻ぶ。愛しい、我が子。

「本当だ、あたたかい」
「ね?ボタンの言う通りでしょ?」
「何の絵本に書いてあったんだ?」
「じいさまに読んでもらったの。お父さんとお母さんがあたたかいのは、ボタンとシオンを愛してくれてるからなんだって。ボタンたちが家族で、繋がってるから、みんなあたたかいんだって」

 笑顔で話すボタンに、ウタカタ様が慈しむように目を細める。「家族、か」そう呟いて、ボタンの頭を撫でる。

「お父さんとお母さんは、ボタンが生まれたとき嬉しかった?」
「もちろん。ボタンが生まれたとき、ウタカタ様ったら息をあげて走ってきて」
「任務が終わってすぐの知らせだったんだ。しょうがないだろ」
「えへへ。お父さん、ボタンが生まれたとき、嬉しかったんだ」

 ウタカタ様の腕に頬を擦りながら、ボタンが顔をくしゃりと崩した。それを聞いたシオンが、めずらしく自分から私の手を握り、じっと目を見つめる。

「…………僕のときは?」
「嬉しかったに決まってるでしょう?」
「お父さんも?」
「当たり前だろ。シオンはオレの大切な息子なんだから」

 ウタカタ様が腕を広げて、私たちを抱きしめた。ウタカタ様の腕の中で、幸せそうな笑い声が弾ける。その声を聞きながら、小さなふたつの手が重なった左手を、自分のお腹の上に乗せた。それを見たウタカタ様が、ゆっくりと頷く。

「……今日はね、2人に大事なお話があるのよ」

 ボタン——これから築き上げる幸せの中、強く美しく育っていくために
 シオン——どんなに遠く離れてしまっても、家族の繋がりを忘れないために

「聞いてくれる?」

 ウタカタ様の手の平も重なって、左手の温度が腹部へふわりと伝わる。柔らかい温もりの向こうに宿った命。新しく生まれるこの子は、一体どんな声をしているんだろう。ボタンのように明るく、シオンのように優しく、そしてウタカタ様の様に、強く逞しい——なんでもいい。元気な産声をあげてくれれば、それだけで。

「ボタン、シオン、よく聞いてね。今、お母さんのお腹には——」



(あなたの笑顔が幸せの印)