聞こえるのは天使の寝息

 ホタルの食器を洗う音が耳に届く。さっきまで騒がしかったこの部屋も、今ではそんな微かな音が聞こえるくらいに静かだ。苦笑とともに零れたため息が、静粛に吸い込まれる。

「子守りご苦労さまです」
「ったく、毎晩やっても慣れないな」
「ふふっ」

 困っているオレを見て、ホタルは楽しそうに笑う。起き上がろうと床に手を付けば、何かに引っ張られる袖。

「…………」

 両袖にくっつくは小さな手。微笑んだホタルが手を離そうとしても、がっちりと掴んで離さない。

「2人共、お父さんが大好きなんですね」
「2人してこれとはな……」

 やっとのことで手を離し、布団へ閉まった小さなそれを見届ける。

「つい最近まで夜泣きが激しかったのに、子どもの成長は早いもんだな」
「本当、あっという間にここまで育って」

 ホタルと結婚して6年。長いようで短い月日が頭に浮かぶ。

「ボタンもシオンも、すぐに大人になってしまうんですね」
「その方がいいだろ。静かになって」
「そんなこと言って、ウタカタ様だって寂しいんでしょう?」

 シオンの頬を撫でたホタルが意地悪気な表情を見せた。あながち間違ってもいない問いかけに眉を顰め、寝室をあとにする。

「寝てるときはいいが、昼間は騒がしくて困る」
「だってまだ子どもですもの」
「このまま何事もなく育ってくれればいいけどな」
「相変わらず、素直じゃないですね」


(寝顔は天使のようなのに)