好きだ

 縁側に座ったホタルの膝に頭を乗せ、ウタカタは大きな欠伸をした。庭に咲いた桜の木から、花弁がひらひらと落ちていく。緑と桃の混ざった絨毯は、春を感じさせるには十分だった。近くで鶯の鳴き声もする。

「すっかり春ですね。この間まで雪が降っていたのに」
「春はいいな。四季の中で1番ほっとできる」
「ウタカタ様は、春がお好きですか?」
「ああ、好きだ」

 ウタカタの答えに、ホタルはやんわりと微笑んだ。桜を見上げながら、ウタカタの細い髪を撫でる。鶯の鳴き声が、またどこからか聞こえてくる。

「鶯って不思議ですよね。声は聞こえるのに、姿は見えなくて」
「そこがいいんだろう。目の前でチュンチュン鳴かれたら、耳障りで仕方ない」
「ウタカタ様、鶯はホーホケキョですよ」

 笑い声を漏らしたホタルの手を、ウタカタが掴んだ。そのまま唇を寄せ、仰向けのままホタルを見つめる。ほんのり桜色に染まったホタルの顔は、思わず見とれてしまうくらいに妖艶だった。ウタカタの瞳が、愛おしそうに細まる。

「照れてんのか?」
「照れてないです」
「でも、頬が赤い」
「暑いんです」
「まだ春なのにか?」
「もう、ウタカタ様のいじわる!」

 顔を桜色から林檎に変えて、ホタルはウタカタから顔を反らした。その様子に、ウタカタは微笑した。ホタルのこの反応が面白くて、つい意地悪してしまうのは、ウタカタの悪い癖。

「ホタル、拗ねたのか?」
「…………」
「悪かったよ。お前の反応が面白いから、つい」
「……次いじわるしたら、許しませんよ?」
「わかってる」

 体を起こし、ウタカタはホタルをそっと抱き寄せた。鶯は相変わらず綺麗な音色を奏でている。桜の絨毯は、風に舞い模様を変える。

「やっぱり、春はいいな」
「ねえ、ウタカタ様。明日はお花見に行きませんか?お弁当やお酒を持って、少し遠出して」
「そうだな。せっかくの春だしな」

 嬉しそうに笑ったホタルに、ウタカタも微笑んだ。春爛漫、穏やかな空気に、心まで満たされる。それはきっと、腕の中の温もりのおかげ。鶯の囀りが連なり聞こえると、2人にまた微笑みが生まれた。





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