来いよ

 夜の廊下を歩きながら、ホタルは小さく震えた。冬の季節に入った空気は、風呂上がりの体には冷たすぎる。手を温めようと吐いた息が、薄く色をつけた。

「ホタル、今夜は冷えるぞ。そんな薄着じゃ風邪を引く」

 寝室の襖を開けたホタルを見て、開口一番にウタカタは言った。布団の上に胡座をかき、手持ちぶさたに読んでいた本を閉じる。

「大丈夫ですよ。私、体は丈夫なんです」

 先程までの震えを隠すように、ホタルは笑顔で言った。こんな寒い廊下を歩き、上着を取りに行くのは少し面倒。そんなホタルの考えを見抜き、ウタカタは呆れた顔でホタルを見た。

「ったく……」

 小さく息を吐きながら、膝に置いていた本を枕元へと移動する。電気を消し布団に入ると、立ったままのホタルの方を向いた。

「来いよ」

 その声に横たえたホタルに布団を被せ、ウタカタも肩まで潜り込んだ。小さく身震いしたホタルの手を握り、眉を顰める。

「……どこが大丈夫なんだ。こんなに冷たい手をして」
「だって、厚着をしたらウタカタ様の温もりが遠くなっちゃうじゃないですか」
「言い訳はいい。ただ面倒だっただけだろう」

 冷えきったホタルの体を抱きしめ、ウタカタは目を閉じた。風が窓を叩く音が聞こえる。明日には雪が降るかもしれない。ホタルは喜ぶだろうな。

「おやすみなさい、ウタカタ様」
「ああ」

 耳元で聞こえた声に返事をして、ウタカタはゆっくり眠りに落ちていった。





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