この先もお前から目が離せそうにない
この気持ちに気がついたのはいつだっただろうか。思い起こせば、随分と昔から、オレはホタルをひとりの女として見ていたのかもしれない。あどけない仕草も、無邪気な笑顔も、女の魅力とはかけ離れている。けれど、どうしてか目が離せない。世話が焼ける弟子に対する、一種の庇護欲なのだろうか。それにしては、些か説明のできない現象が多すぎる。
例えば、こんなふうに、ホタルが他の男の傍にいるときの、どうしようもない苛立ちとかだ。
「オレから離れるなと言っただろう」
ホタルに付きまとっていた男どもを追い払い、いつものようにぎゅっと手を繋ぐ。無防備な様子を叱りたくなるが、オレを見たとたんに安心したような、穏やかな表情を見せてくるのだから、さっきまでの苛立ちはどうでもよくなる。絶対的な信頼。ホタルがオレに向けている、真っ直ぐな気持ちだ。
「師匠はいつも、私を守ってくださりますね」
「当たり前だろう。弟子の面倒を見るのは師匠の仕事だ」
「けれど、師匠って時々過保護だなぁって思います」
「……なに?」
にこにこと手を繋ぎながら、ホタルが空を仰いだ。それから視線だけをこちらに向けて、したり顔で口角を上げる。
「そんなに心配しなくても、私の好きな人は、ウタカタ師匠だけですよ」
突然吐かれた台詞に、ぎょっとして立ち止まる。ホタルは得意げに唇を結ぶと、握っていた手を離して左腕に抱きついた。
「うふふ、師匠ったらわかりやす過ぎるんです」
「お前……オレの気持ちを知ってて態とやっていたのか」
「そういうときと、そうでないときがあります。でも、ウタカタ師匠を想う気持ちは本当ですよ?」
「……はぁ…………」
ため息をついてホタルの顔を見るが、怒る気にはなれない。あどけない仕草と、無邪気な笑顔。計算されたものなのか、そうでないのか。どちらにしても、オレはこの先もホタルに勝つことはないのだろう。どんなに振り回されたところで、この手がホタルを離すことは決してない。
「この先もお前から目が離せそうにないな」
独り言のように呟くと、ホタルが楽しそうに笑い声をこぼした。天真爛漫な弟子との旅路は、これからも波乱が続きそうだ。