俺を困らせたいとしか思えないな

 祭りのような人混みの中では、ホタルから目を離せなくなる。立ち寄る露天商の親爺にも、無邪気に愛想を振りまき、なんてことない飴細工にも目を輝かせて飛びついていくのだから、さながら子犬のようだ。離れないようにとしっかり手を繋ぎ、ついでにホタルに見とれていた露天の親爺にガンを飛ばしておく。当のホタルはオレの気なんて知らず、楽しそうに林檎飴を頬張っていた。

「やっぱり、お祭りって楽しいですね!」
「こうも人が多いと、気が抜けないけどな」
「師匠も食べますか?林檎飴」

 差し出された飴を見れば、妖しく濡れた赤が露天の灯に反射する。戸惑うオレの疚しい気持ちに気がつかないのか、ホタルはにこにこと笑ったまま、飴をオレの唇に近づけた。

「美味しいですよ。とっても甘くて」
「あ、ああ」

 唇に触れた飴に、おそるおそる舌を差し出す。甘く感じたのは林檎のせいだけではないな、とホタルを見ると、相変わらずあどけない笑顔を浮かべたままこちらを見つめていた。

「……オレを困らせたいとしか思えないな」

 その無邪気な行動のひとつひとつに、どれだけの男が惑わされてきたのだろう。高鳴った鼓動を感じながら、握った手を確認する。
 舌に残った甘さは、とっくに全身へと回ってしまった。オレの心情なんて知らないホタルは、また楽しそうに露天へと目を移していく。ホタルが傍にいるかぎり、オレの心に平穏は訪れそうにない。





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