こういう時は俺に頼れと言っただろう!
用事から帰り、宿に帰って見えた光景に絶句する。障子は破れ、家具はズタズタに傷がついていた。しんと静まり帰る室内に、嫌な予感が全身を駆け巡る。「ホタル!どこにいるんだ!!」
気配を感じない状況に声を張り上げると、隣の部屋からオレの名を呼ぶ声が聞こえた。急いで戸を開け、散乱する家具を乗り越えてホタルの元へと走る。
「大丈夫か!?」
「はい、なんとか……。敵には逃げられちゃいましたけれど」
言いながら苦笑いを浮かべるホタルからは、僅かに血が流れていた。傷口を押さえて顔を歪めるホタルを、しっかりと抱きしめる。
「どちらが狙いだった」
「私です。禁術がないとわかると、すぐに行ってしまいました」
「何もされなかったか」
「腕の傷だけです。師匠が教えてくれた護身術のおかげで、死なずに済みました」
痛みに耐えながらも、相変わらず笑みを浮かべるホタルの顔を、じっと見つめる。腕の傷は、そんなに深くはない。傷跡が残ることもないだろう。けれど、ホタルを守れなかった。その後悔が、深く胸に突き刺さる。
「どうしてオレを呼ばなかった。こういう時はオレに頼れと言っただろう!」
「すみません、師匠に迷惑をかけてはいけないと思って……」
「迷惑なわけがあるか。お前に何かあるほうが、よっぽどオレには辛い」
もう1度強く抱きしめ、確かめるように身体を撫でる。緊張が解けたのか、ホタルも笑顔を解き、泣き面を浮かべて胸に顔を埋めた。
「ホタルが無事で良かった」
「師匠……」
「もう、無理はするな。そのための師弟だ」
頭を撫でると、ホタルはオレの身体にしがみついた。強がりなくせに、本当はか弱いのだから放っておけない。泣きじゃくるホタルの背中を優しく叩き、伝わる温かさに頬を緩めた。
ホタルのこととなると、どうしてか平静を保てなくなる。忍としては穴となるが、自分でもどうしようもないのだから仕方がない。
ホタルが落ち着くまでこうしていようと、赤子をあやすように腕を動かした。弟子を持つというのは大変なことだな、と苦笑いを浮かべると、それ以上に温かい気持ちが、胸を覆い始めた。