どれだけ心配したと思ってる
旅の途中、違和感を覚えて後ろを振り返ると、そこにいたはずのホタルの姿がない。またか、と舌打ちをしつつ、来た道をシャボンの飛ばしながら早足で戻り始めた。オレの弟子は、目を離すとすぐにいなくなる。普段は忠犬のように後をついてくるのに、気まぐれに姿を消すのは猫のようだ。
逃げたわけではない。途中ではぐれ迷子になったか、はたまた誰かに攫われたのか。後者の可能性がある以上、一刻も早くホタルを見つけなければならない。
「向こうか」
シャボンが割れる気配に素早く身体を移動し、大きな木の下に辿り着く。声を出して名前を呼べば、頭上から頼りない返事が返ってきた。
「師匠、助けてくださいっ」
「何だ、どうしてそんなところにいる」
「小鳥が巣から落ちていたので、助けようとしたら、私が降りられなくなってしまって……」
眉を垂らして助けを乞うホタルを見上げて、ほっとため息をつく。チャクラを足に溜めて木に登り、ホタルに手を差し出すと、安心したような顔をして抱きついていた。
「良かった。もう戻れないかと思いました」
「ったく、どれだけ心配したと思ってるんだ」
「すみません、師匠」
「黙っていなくなるな。心臓に悪い」
ホタルの身体を抱きかかえて地面へと降りると、ホタルは満面の笑みでオレを見上げてきた。反省しているのか、いないのか。あどけない弟子に振り回されている自分を自覚しながら、腕の中で笑うホタルに、そっと笑みを返した。