俺の目の届く範囲にいてくれ
薬屋の扉を開けて外へ出ると同時に、視界に映った光景に舌打ちをする。少しの間だからと高を括ったのがいけなかったのか。眉間に皺を寄せながら、大股でホタルに近づく。視線の先には、こちらに背を向けて首を竦めるホタルと、そんなホタルの腕を馴れ馴れしく掴んでいる男の姿。「何をしているんだ」
背中越しに声をかけながら、さりげなくホタルの肩を掴み、自分の方へと引き寄せる。視線に纏った殺気に気がついたのか、男はそそくさと言葉を濁しながら消えていった。
「ウタカタ師匠!良かった。あの人なんだかしつこくて、ずっと付きまとってきて……」
「まったく、ナンパのひとつも躱せないとは、世話が焼けるな」
受け取った薬を背負い袋へとしまうと、ホタルは気まずそうに視線を上げた。所在なく宙に浮く腕にさっきの光景が重なり、また眉間に皺が寄ってしまう。
「すみません師匠。ご迷惑をおかけして……」
「迷惑じゃない。が、お前をひとりにはしておけないな。これからは、オレの目の届く範囲にいてくれ」
言いながらホタルの腕を掴み、自分の方へ引っ張りながら足を進める。後ろでホタルが慌てた声を上げたが、知ったことではない。未だ消えない妬心を抑えるために、掴んだ手のひらの力を強くする。
「師匠?あの、やっぱりまだ怒って——」
「怒っていない。いいから、オレの傍から離れるな」
不思議そうにオレを見つめるホタルの視線を感じながら、自身の過保護さにうんざりする。けれど、心配なものは仕方がない。掴んでいた腕を離し、代わりに手のひらを合わせると、ホタルは嬉しそうな声を上げて手を握りしめた。この無邪気な弟子を守るためには、オレが近くに居るしかないのだ。