笑って、待ってて
※学パロ人気のなくなった教室に、夕陽が赤みを差していく。窓から見える景色は、まだ冬の名残を残して、旅立ちを渋るように燻っていた。握りしめていた卒業証書を腋に挟んで、携帯を開く。鳴らない着信音に、気持ちが浮き足立つ。
「待たせたな、ホタル」
教室のドアが開いて、ウタカタ先生が近づいてきた。式中とは違い、緩くなったネクタイとシャツのボタンが、大人の色気を感じさせる。その姿に胸が高鳴り、頬が熱くなるのがわかった。
「卒業おめでとう。これでもう、この学校とはお別れか」
「はい。もう制服が着られなくなるなんて、なんだか寂しいですね」
先生が隣に立ち、私と同じように夕焼けを見つめる。ぼうっと感傷に浸っていると、優しく肩を抱き寄せられた。近づいた距離に顔を見上げると、慈しむような目線が私を貫く。
「いつ、向こうに行くんだ」
「2週間後です」
「卒業すれば、今までのようにはいかないか」
「……先生、」
「わかってる」
顎に手が添えられ、ゆっくりと唇が重なる。1度離れて、目を合わせたあと、啄むように何度もキスを交わす。先生の背中に手を回すと、床に卒業証書が音を立てて落ちた。それを合図に唇が離れ、抱き合ったまま見つめ合う。
「遠距離だろうが関係ない。だから、そんな顔をするな」
「でも、やっぱり不安です。先生、ちゃんと待っててくれますか?」
「当たり前だ。今だって、ホタルが卒業するのを、ずっと待っていただろう?」
卒業証書を拾って、いつかのようにコツンと頭を叩かれる。その仕草に微笑んで、先生に思い切り抱きついた。
「大好きです。ウタカタ先生」
「もう先生は終わりだろ?」
「……じゃあ、ウタカタさん」
「おいおい、これからも敬語のつもりか?」
額をくっつけて、至近距離で笑いあう。夕陽に照らされた頬に手を添えて、また唇を重ねた。慣れ親しんだ教室を抜け出して、新しい関係が、今、始まる。