おはよう、がんばって

※学パロ


 震える手で受験票を握りしめながら、改札口を見つめる。手袋の中で、冷えた指先が力を持っていくのがわかる。怖くて、不安でたまらない。けれど、ここまで来たんだ。今さら逃げるわけにはいかない。

「大丈夫、大丈夫だよ」

 小さな声で呟いて、足を一歩踏み出した。大きく深呼吸をして、受験票を鞄へとしまう。

「葛城」

 改札を通ろうとした瞬間、名前を呼ばれて振り返る。早朝の静かな構内に、見慣れた姿が息を切らして立っていた。

「ウタカタ先生?」
「間に合ったか」
「どうして、先生がここに?」

 驚く私に、先生は汗を拭いながら小さな紙袋を差し出した。受け取って中を見ると、赤い合格祈願の御守りが入出てきた。

「これって……」
「わざわざ買ってきたんだ。感謝しろよ」

 先生の言葉に、緊張の糸が解れたのか、我慢していた涙が溢れてきた。そんな私を、先生は優しく抱き寄せて、髪を撫でてくれる。

「あれだけ頑張ったんだ。必ず受かる」
「はい」
「頑張れよ。……ホタル」

 目を合わせて笑ったあと、御守りを握りしめて先生にお礼を言う。さっきまでの不安が嘘のように、体が自信を持っていく。

「行ってきます、ウタカタ先生」

 改札口を通り抜けて、先生を振り返る。無言で頷いた顔を焼きつけて、ホームへの階段を、しっかりと登った。





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