バイバイ、大好き

※学パロ


 屋上のフェンスにもたれながら、雲ひとつない青空を見上げた。4階建ての校舎の屋上なのに、空は遠くて手が届かない。見上げた青に振れたくて、右手を伸ばして背伸びをしてみた。風が指の間を通り抜けて、気持ちがいい。

「何をしてるんだ?」

 扉が開いて、ウタカタ先生がこちらに近づいてくる。いくら人がめったに来ないからって、鍵を掛けないのは不用心だと思うの。そんなことを考えながら、視線を空から先生に移して、空を掴めなかった手を下ろした。

「遅いですよ、ウタカタ先生」
「悪い、会議が長引いたんだ」
「……来てくれないかと思った」

 フェンスに反動をつけて、先生に抱きつく。受け止めてくれた先生のシャツから、微かに洗剤の香りがした。その香りを逃がしたくなくて、腰に回した腕の力を強める。

「おいおい。そんなに待たせたか?」
「待ちましたよ。ずっと、寂しかった」
「ホタルはせっかちだな」

 2人きりの時だけ呼ばれる名前に、触れるだけの優しいキス。屋上で過ごすこの時間が、私にはたまらなく大切な物。

「こんなとこ誰かに見られたら大変ですね」
「今さらだな。まあ、その時はその時だが」
「先生、大好きです」

 大声で言えない関係だから、時々無性に寂しくなる。それを知ってか、先生は忙しい時間を縫って、私との時間を作ってくれる。誰かに見られてはいけないから、帰りはいつも別々。繋いだ手を名残惜しそうに離して、先生の顔を見つめる。

「そんな顔をするな。明日になればまた会える」
「わかってます。バイバイ、ウタカタ先生。また明日」
「ああ、また明日」

 掴めなかった青空も、鼻孔をついた先生の香りも、触れた唇も、風に煽られたスカートも。全部全部、淡い青春の思い出たち。階段を駆け下りながら、先生の言葉を反芻する。バイバイ、大好き。明日がこんなに遠いなんて、私はもう、この恋に溺れている。





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