ごめんね、ありがとう

※学パロ


 鉛色の空を見上げながら、自分でも大袈裟だと思うくらい盛大なため息をつく。今日は朝からツイてなかった。寝坊して遅刻ギリギリだったし、苦手な数学は当てられてしまう。慌てて家を出てきたせいで、天気予報なんて見ていない。

「傘なんて持ってないよー……」

 靴箱にもたれながら、降り止まない雨を見上げる。走って帰る選択をするには、降水量が多い。補習さえなけば、友達に入れてもらって帰れたのに。

「雨の日に補習なんてしなくていいじゃない!ウタカタ先生のばかっ」
「誰がバカだって?」
「せ、先生!!」

 聞こえた声にぎょっとして振り向けば、ウタカタ先生が呆れた顔をして立っていた。その視線に曖昧な笑顔を返して、舌を出しながら顔を戻す。

「オレだって好きで補習をしている訳じゃない。葛城の成績があまりに悪いから、心配してやっているんだ」
「……わかってます。ごめんなさい」
「反省してるなら、今日の分くらい復習しておけよ」

 そう言って、先生が折りたたみ傘で私の頭をコツンと叩く。唇を尖らせながら頭を押さえると、そのまま傘を押しつけられた。

「先生?」
「貸してやる。今日は夜中まで降り続けるそうだ。止むのを待ってたら学校に泊まることになるぞ」
「でも、先生は……」
「オレは車があるから大丈夫だ。明日でいいから、ちゃんと乾かして返せよ」

 返事をする暇もなく、先生は雨の中を走っていってしまった。取り残されたように立ち尽くしながら、手の中の傘を見つめる。
 ぶっきらぼうで愛想がないけれど、こういう所があるから気になってしまう。使うのが惜しくて、雨空を見上げながら傘を抱きしめた。

「先生の、ばか」

 雨音にかき消されるほど小さな声で呟いて、ゆっくりと傘を開いた。明日、ちゃんとお礼を言わなくちゃ。足元の水たまりを蹴飛ばしながら、先生の顔を思い浮かべる。
 自然に緩んでしまった頬を引き締めて、水たまりを思いきり踏みつけた。





Thanks for 確かに恋だった