君を待つ雨の午後
※現代パロ地面に積もっていた雪も溶け、少しずつ花の蕾も膨らんできた春の日、天気は朝から下り坂だった。張り切ってセットしてきた髪も、湿気を吸って膨らんでしまっている。今日は、せっかくのデートなのに。
「あーあ……」
待ち合わせのカフェで頬杖をつき、濡れたガラス越しに空を見上げた。街を行き交う人たちは、皆傘をさして俯いている。これじゃあ、あの人が来てもすぐに見つけられない。1分でも、1秒でも、多く姿を見ていたい。今日だって、1ヶ月ぶりに会うんだもの。早く、早く、声が聞きたい。
「――ウタカタさん……」
“雨で電車が止まって、少し遅れる”短く書かれたメールを閉じて、テーブルに突っ伏した。雨は私からウタカタさんを遠ざける。電話だけじゃ足りない。目の前で、あの優しい
地面を叩く雨の音と、周りから聞こえる楽しげな会話に、だんだんと寂しさが溢れてくる。このまま電車が止まって、ウタカタさんと会えなかったら……そう考えたら、自然と涙が出てきた。
「外まできて居眠りか?相変わらずだな」
「――――!」
突然降ってきた声に顔を上げると、全身を濡らしたウタカタさんが立っていた。髪からは雫がぽたぽたと垂れ、服は水を吸って色が変わっている。
「どうしたんですか……?その格好……」
「ん?……ああ、電車が動きそうになかったから、走ってきたんだよ。あと1駅だったしな」
そう言ってタオルで髪を拭くウタカタさんの足元を見ると、膝の辺りまで泥が跳ねていた。店内に入る前に絞ったのか、裾に皺が寄っている。
「こんなにひどい雨なんだから、無理しなくても良かったのに……」
「お前を待たせるわけにもいかないだろ。ただでさえ、めったに会えないんだからな」
言いながら顔を覗き込まれたとき、たまらなくなってウタカタさんに抱きついた。押しつけた顔から雨の匂いが鼻孔に広がって、愛しさを増大させる。
「おいおい……人前で何やってるんだ」
「だって、ずっとずっと会いたかった」
「……ホタル」
「会いたくて会いたくて……会いたかったんです」
「わかったよ。……俺も会いたかった」
耳元で囁かれて、1回だけ強く抱きしめられる。それから少し照れくさそうに笑って、私の手をとり歩きだした。
「この格好で店内にもいられないしな。雨は降ってるが、外に出るか」
「ウタカタさんと相合い傘ができるなら、雨も好きです」
「単純だな。お前、さっきまで雨なんて嫌いって思ってただろ」
「――!どうしてわかったんですか?」
「ホタルはわかりやすいからな」
開いた傘に腕を組み、濡れたアスファルトを並んで歩く。湿った肩口に頬を擦り寄せ、小さく名前を呼んだ。
「これからどこに行くか」
「ウタカタさんと一緒なら、どこでもいいです」