こんな雨の日には

 朝から雨の降る日は、自然と目が覚めるのが遅くなる。いつもは障子の隙間から、燦々と太陽が起床を促してくれるけれど、こうも空が曇っていてはそうもいかない。庭が白黒のように見える中、雨が落ちる音だけが耳に伝わる。頭は、まだ半分夢の中だ。

「やっと起きたのか」
「ウタカタ様」
「もうすぐ昼だぞ。お前が朝寝坊なんて珍しいな」
「だって……」

 呆れたように笑うウタカタ様に、唇を尖らせながら空を見上げる。雨の日は、ろくな修業もできない。髪も湿気でベタベタしてしまうし、気持ちはどんどん沈んでしまう。

「この雨じゃ、修業は延期だな」
「……むぅ」
「剥れるなよ。なんなら、今から2度寝でもするか?どうせ何も予定はない」

 言いながら隣に座るウタカタ様に、ぎゅっと抱きつく。湿気でベタついた頬が、ウタカタ様の胸に張り付いた。やむ気配すらない雨を見たくなくて、ウタカタ様に擦り寄るように顔を隠す。今はなんだか、思いきり甘えたい。

「どうしたんだ。そんなに雨は嫌か?」
「だって、修業が」
「修業が全てじゃないだろう。こうしてのんびりする日も、たまには大切だ」

 泣く子をあやすように頭を撫でられて、単純にも私の沈んでいた気持ちは消えていく。胸にくっつけていた顔を離し、かわりにウタカタ様の肩に顎を乗せて距離を縮めた。部屋はじめじめとしているのに、ウタカタ様に近づくのに不快さはない。

「今日はやけに甘えてくるな」
「だめですか?」
「そうは言ってないだろう。こういうのも、いいなと思っただけだ」
「…………ふふっ」

 敷いたままの布団も片さないまま、ウタカタ様と抱き合う。雨は相変わらずやまなくて、部屋も薄暗いままだけれど、ウタカタ様の言う通り、こういうのもたまにはいいかもしれない。湿った空気を肺いっぱいに入れて、口角を少しだけ、上げた。





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