赤いのは寒さの所為に決まっている

 くしゅん。後ろから聞こえたくしゃみに眉を顰め、赤い鼻を擦るホタルを振り返る。今の季節には不釣り合いな格好のホタルは、寒さを紛らわすように腕をさすっていた。羽織りのひとつでも貸せたらいいのだが、あいにくオレも着物1枚羽織っただけ。せめて早く宿に着くようにと、足を少しだけ早める。

「すっかり冬ですね。この間まであんなに暑かったのに」
「今年は秋が短かったからな。いつまでもそんな格好じゃあ、風邪を引く」

 シャボン玉で飛んでいけば、寒さなど関係ないのだが、いつ何が起こるかわからない身、余計な体力を使うのは避けたい。だが、ホタルに風邪を引かせるのも忍びない。やはりここはシャボン玉を使うべきか。

「——っ」

 ひとり考えを巡らせていたら、唐突にホタルに手を握られた。慌てて振り返れば、上目遣いにこちらを見つめ、白い息を吐くホタルと目が合う。

「ウタカタ師匠の手も冷たいかと思いまして……こうすれば、少しは暖かいでしょう?」

 左手を両手で包まれ、ホタルの頬にぴたりと付けられる。かじかんだ手に、ホタルの温度がじわりと溶けた。

「霜焼けになったりしたら大変ですから」
「オレが霜焼けになるまえに、ホタルが風邪を引くだろ」
「大丈夫ですよ。私、体は丈夫ですし」
「無理をするな」

 空いていた右手で、冷気に曝されているホタルの腕に触れる。このまま冷えれば、ホタルの体調に支障をきたすのは明らかだ。

「この先はシャボン玉で移動しよう」
「でも、そんなことしたら師匠が……」
「オレもそんなに柔じゃない。このままお前を冷やすほうが問題だ」

 チャクラを練り込んだシャボン玉に、ホタルを連れて入り込む。外の空気が遮断され、空へ浮かび上がると、ホタルが腕に抱きついてきた。

「ホタル?」
「寒いです、師匠」
「さっきまで平気だと言ってたじゃないか」
「やっぱり寒かったです。師匠が暖めてください」

 そう言って頬擦りするホタルの体を腕から離し、代わりに両腕で抱きしめる。冷たい肌を暖めるように手の平でなぞり、互いの体温を分け合った。腕を伝い頬まで指先が辿ると、頬を染めたホタルと目が合う。

「顔が赤いな。照れてるのか?」
「寒いからですよっ。師匠こそ、耳が赤いです」
「……寒いからだ」

 右手をホタルの頭に添え、包み込むように距離を詰める。宿に着くまでに、ホタルが暖まればいいが。そんなことを考えながら、宙を進むシャボン玉の速度を、少しだけ落とした。





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