夜空を見上げ、想う
冬の空は遠い。暖かな太陽も、冬になれば力を弱め、地上に僅かな温もりを与えるだけになってしまう。力強い太陽が遠ければ、月はもっと遠くなる。透き通った夜空に、浮かぶ十六夜の月。夜空を支配するのは月の特権なのに、それを遠慮するかのように空の少し下でぼんやりと浮かんでいる。
「いい加減、寒くないのか」
「平気です」
「ったく。飽きないな、お前も」
ウタカタ様が手渡してくれた肩掛けを羽織りながら、また空を見上げる。月を見ると、ウタカタ様を思い出すのはなぜだろう。そういえば、あの日も月が浮かんでいた。今日よりももっと大きな、綺麗な満月だったけれど、光の暖かさは変わらない。
「ホタル」
「なんですか?」
「月なんか見ておもしろいか?」
「おもしろいといいますか、落ち着きます」
「落ち着く?」
「はい」
それはきっと、ウタカタ様に似ているから。そう言えば彼は、顔をしかめて首を傾けるだろう。だからあえて口には出さない。かわりにウタカタ様を見上げて微笑むと、ウタカタ様は、少し呆れたように笑って、隣に腰掛けた。
抱かれた腰に倣って、身体を預ける。どんなに遠くにいたって、いつも私を見守ってくれる。こうして温もりを与えてくれる。
「ウタカタ様って、温かいですね」
「ホタルの身体が冷えているんだろう。風邪を引くぞ」
「大丈夫ですよ。ウタカタ様が傍にいれば」
「なんだ、その理屈は」
今となっては遠い昔。まだ禁術が背中にあった頃の、淡い記憶。私の満月は、今も此処に。