もうこの唇に触れるものは何もない
シャボン玉を飛ばす薄桃色の唇をじっと見つめる。視線に気づいて照れたようにはにかむ女に、自然と笑みがこぼれた。「ウタカタ様も飛ばしますか?」
「いや、オレはいい」
いつかはオレだけの特等席だったこの木も、今は二人のもの。泡沫の幸せだとしても、ここで過ごす時が無性に愛しい。
「ウタカタ様、どうしたんですか?」
「え?」
「さっきからずっとニヤニヤしてる」
不思議そうに見つめる女に目を細め、柑子色の髪をそっとといた。
「お前が馬鹿みたいにシャボン玉ばかり飛ばしてるからさ」
「なっ、ひどいです!」
「可愛くて仕方ないんだよ」
肩を掴み、触れるだけのキスをした。重なった熱に酔いそうになる。
もうこの唇に触れるものはない 。ホタルとのキスが、最後になればいい。