眠れぬ夜のアールグレイ
ぽつぽつ、ぽつぽつ。屋根を伝った雨が地面に落ちる音が聞こえる。窓の外は何も見えない子の刻。少し重い頭を動かして、お盆を運ぶウタカタ様に顔を向けた。
「調子はどうだ、ホタル」
「昼間よりは、だいぶ楽になりました」
「そうか、なら良かった」
額にかかった髪に触れられて、胸の奥がトクンと鳴った。そのまま重なる冷たい掌に、額の熱が吸いとられる。
「喉が渇いただろう。起き上がれるか?」
「すみませんウタカタ様。こんな遅い時間にお手を煩わせて……」
「こういう時は謝罪じゃなく、礼を言えと教えただろ」
「……ありがとうございます、ウタカタ様」
「いい子だ」
支えられた体と、ウタカタ様の優しい顔。それだけで風邪も治ってしまいそう。差し出されたストローを加え、白い液体を喉に通す。
「冷たくて、美味しいです」
「そうだろ?」
「見た目も絹みたいですごく綺麗……」
「キャンブリックティー。昔、師匠と行った旅先で見つけた紅茶だ」
甘い優しさが喉を潤し、また眠気を誘ってくる。それを察したウタカタ様が私を寝かせてくれて、またひとつ、ウタカタ様を好きになる。
「ウタカタ様……」
「眠いなら寝ろ。早く治せよ」
「はい」
「おやすみ、ホタル」