私が犬で彼が猫
しんしんと降る雪の上、私の足跡だけがはっきりと残る。サクサクと踏み締める足音以外は何も聞こえない、無音の空間。ひらひら舞う雪を見上げ、思い切り両手を広げた。「雪はこんなに綺麗で楽しいのに」
庭に並んだ大小様々な雪だるま。その隣に不格好になってしまったかまくら。雪合戦もしたいけれど、あいにく相手がいない。
「師匠はどうしてそんなに寒がりなんですか?」
ぴったりと障子を閉め、少しの風も許さないというように、部屋の中で黙る師匠。今年1番の大雪は、師匠にとっては迷惑そのものだったみたい。いつも見ている景色が一面真っ白で、外に出てみれば楽しいこともあるのにな。
「そうだ!」
寒がりな師匠にも、冬を楽しんでもらいたい。まだ足を踏み入れていない綺麗な雪を集めて、手の平に紡錘形を作る。赤い木の実に、小さな笹の葉。溶けないうちに、早く運んでしまわないと。
「師匠、見てください!」
部屋の障子を開けて師匠を見ると、炬燵布団を肩までかぶって不機嫌な顔をしていた。雪に濡れた私の姿を見て、ますます顔をしかめる。
「お前……そんな薄着でよく平気だな」
「そんなことより、ほら、見てください」
「……雪うさぎか」
「はい!師匠にも雪を楽しんでもらいたくて」
手の平と部屋の温度で、端のほうは溶けてしまっている。ぽたりと雫が畳に落ちるのを見て、師匠が私の手をぐっと握った。
「ししょ……」
「冷えてるな。ったく、手袋くらいしたらどうだ」
「だって……」
「霜焼けになっても知らないぞ。——ほら、」
くしゃりと溶けた雪うさぎごと、師匠が私の手を包み込んだ。温かい熱が、じわりと伝わる。
「ああ、雪うさぎが……」
「部屋の中になんか持ってくるからだ」
「師匠に見せたかったんですよ。ずっと部屋の中にいるから」
「こんなに寒いんだ。冬は炬燵が1番だろう?」
赤く冷えた指先を、師匠の手の平が1本ずつ温めてくれる。ずっと部屋の中にいた師匠の手は、温かい。ほっこり身体まで温まった気がして、師匠の手を握り返す。
「あったかいです、師匠の手」
「ずっと炬燵の中にいたからな」
「身体も寒いって言ったら、温めてくれますか?」
「それは炬燵に頼むんだな。手だけならいくらでも温めてやるが」
師匠と手を繋いだまま、炬燵の中に潜り込む。開いたままの障子から、白い雪が舞うのが見えた。