コッペリアの甘い嘘
不思議で、無邪気で、愛らしくて。男どもを振り回す様は、まるでコッペリア。「ウタカタ様、蝶々があんなにたくさん……」
小さな花壇の前で、花びらと共に咲き誇る笑顔。ほら、また。鼻の下を伸ばした男が通りすぎた。それに気づいているのは、オレ1人。
「花も蝶も、みんな春が待ち遠しかったんですね。あんなに楽しそうに踊っちゃって」
「ホタルは春みたいな奴だよな」
「え?」
「暢気で無邪気で皆を夢中にさせて、姿を見るだけで明るくなれる」
しゃがんでいたホタルの手を掴み、無理矢理立たせた。すっぽりオレの腕に収まるホタルに、どこからか溜め息の輪唱が聞こえてくる。
「ちっ、男連れかよ」
悔しそうに顔を歪める姿に、小さな優越感が生まれた。これ見よがしにホタルの頭を胸に押しつけ、頭を撫でる。
「師匠?どうしたんですか?」
不思議そうにオレを見つめるホタルの口を静止し、ちらりと背中を落とす男たちを見た。師匠と弟子、アイツらが思っているような関係ではないが、いずれはそうなる道だ。小さな嘘も、腕の中のコッペリアなら許してくれるだろう。